Monster Hunter「永遠の漆黒〜Blacker of Forever〜」
第一章 第八話
十二頭目。黄と茶褐色が混ざった体表の「ゲネポス」が地に倒れる。
雷藤家の訓練所内、通常訓練の「ゲネポス十五頭の討伐訓練」が行われている。
しかも、ラグナはリラと離され、別々で演習をやらされている。
装備は、太刀「鉄刀【神楽】」に、防具はイーオスの……メイル、アーム、フォールド、グリーヴ。
闘技場に入った途端、牙を向いたゲネポスが三頭も襲いかかってきた。
咄嗟に前転して、彼等の突進をかわした直後、後ろを振り向いた時の遠心力を利用して、「神楽」で横側から斬りかかった。
しかし、後ろから更なる攻撃手が加わった。四頭のゲネポスが同時に噛みついてくる。
既に一頭のゲネポスを倒したラグナは、太刀で自分の前を斬り払った。
三頭のゲネポスの退化した前足に当たり、神楽の鋭い刃が血の色で染まる。
……こうして、残り三頭となった訳だが、息が相当荒れている。
攻撃する時、息を止めないと、武器に力が乗らない。連続攻撃は息を止めてから行うからこそ、流れるような攻撃に上手く体重が乗って強力となるのだ。
こうなるとスタミナの問題だ。三頭なら倒せるが、この荒い息で挑むと連携されて隙を突かれる可能性が高い。ひとまず出方を伺う事にした。
少々の距離を置いて、互いに睨み合った。どこからともなく、ささやかな風が顔を撫でる。
——何故頭装備(ヘルム)を付けていないかと言えば、「風を感じるのは重要だから」と言われたからである。正直、ヘルムを付けるのはあまり好きになれなかったので好都合だったが——
体からじりじりと汗が出て行くのが分かる。冷や汗か、それとも動いたせいの汗なのかは分からないが。
——息が整ってきた。突然ピタッと止まり、一瞬相手の動きが滞った。直後、上から太刀を斬り下ろす。
太刀が斬った風とゲネポスの血が顔をまた撫でる。
三頭を片付けたと同時に、どこからともなくレグルが現れ、拍手をした。
「やはり才能というものかな。ほぼ完全な初心者がここまでやれるとは……。
戦闘の感覚というものが植えついているのか……?俺でさえこの訓練をクリアするのは二ヶ月かかったくらいだからな」
褒められているのか嫌味を言われているのか分からない。とりあえず、嫌味と捉えておくことにした。
確かに、自分でも驚くほど勘が冴えわたっていると思う。
このような戦闘を行った記憶は、過去にない。なのに、ここまで身体が動くのは何故だろうか。
地に倒れ、血を流して息絶えているゲネポスを見てふと思う。
自分は、この村に役立てるのだろうか——
最後の一体を倒したリラは、溜め息と同時に座り込んだ。
「あーあ、ラグナに負けちゃった……」
別々の闘技場で訓練をやらされている二人は、互いで競い合いをしていた。
どちらが先に十五頭のゲネポスを倒せるか。
「あーら、負けちゃっただってぇ?それだけやりゃ充分よ」
そこに、女の声が入ってきた。優雅で美しいというイメージが浮かぶ声だ。
「アレ、フェアリーさん、いつの間に?」
フェアリーと呼ばれた女は、長い足でスタスタとこちらに近づいてくる。
「ずっとモニターで見てたわ。貴方、素質あり過ぎて困っちゃうくらいよ」
長い手足と華奢な身体に、長くさらっとした栗色の髪。
「それはどうも」
恐縮に感じて頭を下げる。
「隣のラグナも相当の見込みがあるわ。貴方達、きっといいハンターになれるわよ」
素直に褒めて貰ったので、素直にリラは喜んだ。
訓練所で既に基本演習をこなしたシルバは、密林の「エリア10」に来ていた。
古代の遺跡らしき建物があるが、入り口が見つからない。
「クソッ」暴言を漏らし壁に手をついた。
直後、その壁は回転し、シルバは危うくこけそうになる。
「……!!仕掛け扉か」
中に入り、地下へ続く階段を下る。念の為、懐中電灯を持ってきて正解だった。
あるフロアに到着した。そこには、違和感の塊のような空気が溜まっていた。
その違和感を放出する物体、それこそシルバが求めた物だった。
全体的に薄い蒼。矛先から剣の中腹にかけて大きな「牙」が鋭い光を放っている。
見るだけで凍りそうな冷気が「感覚」となって身体に染み渡っていく。
「これが……」
分厚い剣幅と共に、少々長めの柄がシルバに握られる。
全てが凍りそうな雰囲気に飲まれる、そんな空気を漂わせる。
そして、封印は解けた。
「これが……「崩冷牙【瞬氷】か……」
by blacker