クリスマス記念特別企画として、番外編を載せます。
The Endless Journey
-番外編 聖夜祭って何?-
新たな仲間が増えてから3週間、村は寒冷期を向かえていた。
美しく色付いていた木々の葉はすっかり舞い落ち、何も纏わぬ枝には、厳しい季節を乗り越える準備を始める事を、人々に教えていた。
地面には毎朝のように霜が立ち、雪が降る日も多くなってきた。
農作物の収穫は温室でしか出来ないため、人々はもっぱらハンターに狩りを依頼したり、街まで買出しに出かけることで、日々の糧を蓄えている。
だが、日々の降雪は時々道路を塞いでしまったりしたので、都会からやって来た作業員達が、街道の整備に汗を流し、村の生活を支えてくれた。
鉄道の運行も滞りなく続いていたが、機関車の車輪の前には小ぶりな雪掻きが付けられていた。
これが降り積もった雪を掻き分け、脱線を防いでいるのだ。
雪が完全に溶け、繁殖期が訪れるまでは、人々と自然の駆け引きが一番激しくなる時期である。
ハンターとて例外ではなく、いつも以上に多くの依頼をこなさねばならなかった。
そんなある日、ジョバンニは久々に狩りを休み、のんびり家でくつろいでいた。
今日から村は3日間休日と祝日が続くので、この時ばかりはハンターもゆっくり休めるのだ。
彼は足の先を暖炉の火で暖めながら、先ほど届いた一通の手紙を眺めている。
封筒には首都の郵便局の消印が押してあり、もみの木の葉と紅白のリボンを使った飾りがあしらわれている。
「親愛なるジョバンニへ
日々精進は続けているか?我は心配無い。
そちらにやって来た友とはうまくいっておるか?
願わくば、近々我が村を訪れる時、その方と一緒に狩りをさせてもらいたい。
いつになるかは分からんが、楽しみにしていてほしい。」
このような調子で近況を語る文面が延々と続いた後、最後に1行だけ付け足しが書かれていた。
「追伸 そういえば、明後日は聖夜祭だな。いつも以上に神に祈りを捧げておくように。
貴公の友、ジャネットより」
のんきな性格のジョバンニは、聖夜祭がどういうものか、皆目見当が付かない。
唯でさえジャネットの不思議な性格には多くの疑問があるのに、加えて新しい疑問を投げかけられては、閉口するしかない。
「一体何なんだろう、聖夜祭って?ここは誰かに聞いてみようか。」
一番手っ取り早く確実な方法、知ってる人に聞くという手段を、ジョバンニは実行する事にした。
ジョバンニはまず、自分が一番信頼している人の所へ向かう。
ポリーは家で、昔使っていた弓の手入れをしていたが、ジョバンニの姿を見ると手を止めてにっこり微笑む。
「あら驚いた。今日は連休初日だから、てっきり夕方まで起きてこないかと思ったわ。
ところで、何か質問でもあるの?今後の狩り?それとも人生相談?」
ジョバンニは令嬢から、もうすぐ聖夜祭だというのを聞かされた事、そして、自分はその時何をしたら良いか悩んでる事を話す。
「聖夜祭って、一体何をする日なのかな?お祈りする日?」
弟子の質問に、ポリーはほぼ即答する。
「何をするかって?決まってるでしょ!
聖夜祭っていうのは、親しい人達で仲良く飲んだり食べたりする日よ!
そうだっ!せっかくだから、明後日はみんなで酒場へ飲みに行きましょ!」
子供のようにはしゃぐ師匠に頷きながら、ジョバンニは首を傾げていた。
ジョバンニは、今度は集会所の方へ行ってみる。
顔見知りのハンター達から、何か聞けるかもしれないと思ったからだ。
淡い期待を抱きながら建物の中に入ったジョバンニは、目の前にいた一人のハンターに声をかける。
「おはようクリスタル。休日も狩りなんて、働き者だね。
そうだ。ちょっと聞きたい事があるんだ。」
いつものように、少女は表情を変えずに頷く。
聖夜祭が何か分からないと言うと、クリスタルは少し間を置き、静かに答える。
「聖夜祭って、親が子に何かを贈る日なんだ。
遠い昔、紅白の外套を着たお爺さんが、毎年この月の25日に、貧しい子供達にプレゼントをあげていたの。
それを称え、この日は親が子供達に何らかの贈り物をするのが習慣になってるの。
私もここに来る2年前までは、毎年何か貰ってた…。
じゃあ、そろそろ良い?狩りに行きたいから。」
相手の水晶のような瞳を見つめながら懸命に頭を働かそうとするが、ジョバンニにはやはり聖夜祭の正体は分からなかった。
相手を無理に引き止めるのも悪いので、結局彼は納得がいかぬまま、少女を見送った。
続く