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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第18話「赤き青年」
翌日の早朝、一行を乗せたテンペスト号は直接シロガネ山に向かわず、チャンピオンロードの入り口にあるシロガネゲートの近くに一時着地した。
「?どうしたんッすか。シロガネ山には行かないんッすか?」
「あと一人、ここで合流する予定になっているんですよ。」
テンペスト号の食堂で荷物を確認しているイヅチのもっともな疑問に、燭陰が答えた。その荷物もイヅチにとっては疑問なのだが・・・。基本的な登山用の装備はまだ分かる。理解できないのは、様々な生活物資に薬、それと尋常でないほどの量の食料だ。それも保存食よりも果物の様な生ものが多いのだ。師匠はシロガネ山で何をするつもりなのだろう。しばらくすると、一人の青年が乗り込んできた。しゃれた黒い服を着て、茶髪ははねてはいるが、綺麗に整っている。表情は自信に満ちながらも、どこか落ち着きを感じさせる。しかし、イヅチはその人物の顔に見覚えがあった。
「あ、あの・・・、もしかしてトキワシティジムリーダーのグリーンさんじゃないッすか?」
「ああ、そうだぜ。やっぱり、俺は有名人だな!」
グリーンは満足そうに頷いていると、自分の荷物を確認し終えた師匠が食堂に入ってきた。
「よぉ、久しぶりだな。忙しいってーのによく時間が取れたな。」
「たりめーだ。あいつは俺の一番のライバルだからな!」
慣れ親しんだように言葉を交わし合っている辺り、割と交流があるようだ。しかし、グリーンと合流してもイヅチの疑問は解決しなかった。ちょうどシロガネ山に行くメンバーが揃ったようなので、思い切って聞いてみる事にした。
「あの〜、これから俺達、シロガネ山で何をするんッすか?」
イヅチの問いを聞いて、師匠とグリーンはニヤニヤしながら答えた。
「「生存確認。」」
その後、再びテンペスト号でシロガネ山の登山口まで移動して、そこからは野生ポケモンの襲撃をかわしつつの登山となった。荷物はたくさんあるが、全員で分担し、ポケモンも使って運んでいく事にした。
「ハァハァ・・・」
登り始めて3時間、途中で休憩は挟んでいるものの、徐々に空気が薄くなり、野生ポケモンの襲撃も増えてきて、イヅチは息切れしていた。常に周囲に気を配っていた中での一瞬の気の緩み—しかし、それは時として大惨事を引き起こすのだ。突然、岩陰からニューラが跳びかかってきた。気づいてモンスターボールに手を伸ばすが、間に合わない—だが、野生のニューラはイヅチに攻撃する事はかなわなかった。その鋭い鉤爪がイヅチに喰い込む前に、上空から飛んできた破壊光線に弾き飛ばされたからだ。破壊光線を繰り出したのは、師匠のウォーグル—プレデレアである。登山の前に、師匠が周囲を警戒する為に上空に放っていたのである。油断した自分と助けられた事実を嬉しくも苦々しく思いながら、イヅチは先を行く師匠達の後を必死についていった。
やがて、気温が下がり始め、ところどころに積雪が見られるようになってきた。どうやら、山頂までもうすぐの様だ。イヅチもようやく師匠達に追いつき一緒に登り始めた。ただ登っているのが嫌なのか、黙っているのが苦手なのかは分からないが、度々グリーンが軽口を叩き、それを師匠がつっこむというやり取りが何度か続くうちに、頂上に着いた。
もうすぐ着く事に安堵するイヅチだが、すぐに周囲の空気の変化に気付いた。静かだけど、力強く、熱い感じ。微かだが、確かに感じる緊張感。上手く説明できないが、一つだけ分かる。頂上には、何か大きな存在がいる。師匠達の目的は、それに会うことだろう。おそらくは、伝説のポケモンに。
しかし、山頂に着いたイヅチが見たのは、伝説のポケモンでは無く、一人の青年—年齢的にはグリーンに近いだろうか、赤いベストと赤い帽子が白い雪景色の中で燃え上がる炎を思わせる。すると、一足先に来ていたグリーンが青年に話しかけた。
「よぅ、ヒマだからわざわざ来てやったぜ。・・・つーか、今更だが、寒くねーのか?」
「・・・危なくなったら、上着着るから。」
「いやいや、危なくなる前に着ろよ?」
ペラペラと喋るグリーンに対し、青年は最低限の言葉を返している。一見すると噛み合っていないようにも見えかねないが、とりあえず仲は良いようだ。ある程度話が終わると、青年が師匠に話しかけてきた。
「・・・また来たの?」
「・・・ああ、また来た。」
青年の言葉に師匠は少したどたどしく返した。
「・・・もう気にしなくていいのに。」
「そんなんじゃねぇよ。アタシの独断、アタシのわがままだ。」
よくは分からないが、青年と師匠との間に何かがあった事は分かる。
「それより、オメー相変わらず細っこいな。ちゃんと飯食ってんのか?」
「・・・食べてる。」
「つーても、インスタント食品がメインだろうがよ。アタシがここで勝手に鍋するから、勝手に食え。」
「・・・だから、いいのに。」
青年は少々困った様子だが、師匠はいつもの様に構わず話を進める。
そして、イヅチの疑問の一つも解けた。師匠は持ってきた食料の生もので鍋を作るつもりなのだ。だが、わざわざこんな山の頂上で鍋をしなくても、彼を下山させて皆で食べればいいではないか。イヅチが新たな疑問に首を傾げている間に師匠とヨノワール、ルージュラが鍋の準備を進めていった。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第19話「奇妙な食卓」
「師匠!俺様の皿に白菜ばっかり入れないでくれよ!」
「うっせー。オメーは主役じゃねーだろ。」
「レッド!牡蠣ばっかり喰うなよ!!」
「・・・いいじゃん、別に。」
無事に鍋が完成し、食べ始めた一同の話声が、寒風吹きすさぶシロガネ山山頂の空気をにわかに暖かくする。
「?イヅチ君、どうかしましたか?」
「・・・師匠とグリーンさん達って、いつ知り合ったんッすか?」
あまり箸が進んでいないイヅチに燭陰が尋ねると、イヅチは登山前から抱いていた疑問を口に出した。
「それについては私が勝手に話すべき事ではありませんね。」
「なんだよ、言ってねーのか?」
「・・・アタシの勝手だ。なんなら、オメーが話してくれよ。」
燭陰の答えに眉をひそめながらグリーンが師匠に言うと、師匠は黙々と食事しながら言った。グリーンは『しゃーねぇな。』などと言いながら、イヅチの方を向いて話し出した。
「お前の師匠と俺たちが出会ったのは、俺とレッドの最初の旅の時だった。当時、カントー地方ではロケット団が暗躍してたのは知ってるよな?」
「聞いたことがあるッす。ポケモンを使って悪い事をする組織ッすよね。」
イヅチの言葉に頷くと、グリーンは話を続けた。
「俺自身は、自分が強くなる事ばっか考えてて、世の中の事とか考えちゃいなかったんだが、レッドはほとんど一人でロケット団と戦ってた。お前の師匠と出合ったのは、ロケット団に占拠されたシルフカンパニーの中だ。その時、俺はロケット団と戦うためにレッドがやってくるだろうと考えて、先に忍び込んで待ち伏せして、予想通りやってきたレッドと戦って負けた直後にお前の師匠に出会ったんだ。」
「それって、もしかして・・・」
イヅチが動揺しながら言葉を発すると、グリーンは重々しく頷きながら続けた。
「お前の師匠は、当時『ロケット団の秘密兵器』と呼ばれる団員の一人だったんだ。既に各地でロケット団の計画を妨害してたレッドを倒そうと勝負を仕掛けてきたんだ。その時から、お前の師匠は尋常じゃ無く強かったよ。認めたくねーが、その時の手持ちポケモンのレベルじゃ、勝ち目は無かった。でも、レッドは諦めなかった。ポケモンの事を信じて僅かなチャンスを物にして何とか勝利したんだ。その後、シルフカンパニーを無事に解放したレッドは、トキワシティジムでロケット団のボス—サカキとの最終決戦に勝利して、ロケット団は解散になった。それに合わせて、お前の師匠もロケット団員から、一人のトレーナーに戻ったのさ。その後、四天王やチャンピオンとの戦いを終え、俺はジムリーダー、レッドはここで武者修行を始めたんだが、ちょくちょくこうやって会う機会を作ってるって訳だ。」
グリーンの話に愕然としたイヅチは、思わず師匠の顔を見ると、師匠は自嘲気味に笑って言った。
「・・・別に隠そうとしてた訳じゃねぇんだ。ただ、こんなアタシからでも何かを教わろうとする連中の顔を見てたら、話しにくくなっちまってな。・・・まったく、情けねー話だ。あの頃のアタシは正真正銘の屑ヤローだった。自分が何をしているかも考えずに、ただ戦い続けてた。そんなアタシが真っ当になろうとするきっかけを作ったのは、アタシなんかよりも弱いと思っていた一人のトレーナー—レッドだったのさ。」
「師匠・・・。」
「・・・別にそんなつもり、なかったよ。ただロケット団が許せなかっただけ・・・。」
イヅチとレッドと呼ばれた青年がそれぞれの反応を示すと、師匠は首を振りながら続けて言った。
「アンタが何と言おうと、あの時アンタに負けてなければ、今のアタシは存在してない。きっと今でも悪事に手を染めていただろう。・・・アンタが何と言おうと、アタシにとってアンタは恩人なんだよ。」
イヅチは師匠の過去を知って衝撃を受けたが、自分はロケット団を抜けた師匠に出会って、その師匠の事も信じている、過去については驚いたが、それが理由で弟子は辞めない—グリーンと師匠の話を聞いてそう思った。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第20話「シロガネ山頂の激戦」
「ラプラス、吹雪!」
「ライガー、10万ボルト!」
ラプラスとライボルトの技が激突し、閃光と共に爆風をまき散らす。
食後、レッドが師匠に勝負を挑んだのだ。いつもは面倒臭がる師匠だが、不思議と断らなかった。そして、始まったバトルはまったくの互角、双方のポケモンが次々と戦闘不能になり、レッドのラプラスと師匠のライボルト—ライガーも満身創痍の中、激戦を繰り広げていた。
「ラプラス、ハイドロポンプ!」
「10万ボルト、重雷砲。」
ラプラスのハイドロポンプと、ライガーの渾身の電撃攻撃である重雷砲が双方に直撃した。ライガーは水流に吹き飛ばされ、ラプラスは極限まで圧縮された電撃にその身を貫かれた。互いに相手の大技をくらい、倒れ伏す。その様子を見た審判役の燭陰は判定を下した。
「ラプラス、ライガー、双方戦闘不能。よってこの勝負、引き分け!」
イヅチは正直、戸惑っていた。最強のトレーナーだと思っていた師匠が苦戦していたからだ。レッドのことはよくは知らないが、強いことは分かる。イヅチの戸惑いをよそに、双方は最後のポケモンを繰り出した。
「オウリュウ。」
「ピカチュウ。」
モンスターボールから現れたオウリュウもピカチュウも激しく戦った後でダメージは浅くない。それでも、相手を鋭い眼光で睨みつける。
「オウリュウ、特性発動!威嚇!!」
「ガアアァァァァッ!!!!」
オウリュウが、ボーマンダの特性いかくを発動した。それだけで大気が震え、地面にもその振動が伝わってくる。
「オウリュウ、ドラゴンクロー、クワトローネ!」
「ピカチュウ、アイアンテール!」
オウリュウが空中から4本の足全てを使ったドラゴンクロ—の連撃を仕掛け、ピカチュウがアイアンテールで迎え撃つ。しかし、体格差のためか、弾き飛ばされる。しかし、レッドにとってはこの程度のことは織り込み済みだ。
「ピカチュウ、10万ボルト!」
「ピッカ、チュ〜ッ!」
空中で素早く態勢を整えたピカチュウは強烈な電撃をオウリュウに見舞った。反応しきれずに直撃を受けたオウリュウだったが、落下することなく飛び続けている。
「・・・・・・」
目の前で繰り広げられる死闘を見て、イヅチは言葉も出なかった。まるで、獣同士が喰い合いをしているような印象さえ受ける。
双方が最後のポケモンを繰り出してから、30分。未だ勝負はついていなかった。しかし、オウリュウもピカチュウも傷を負い、疲労の色が濃くなってきている。そして、決着の瞬間は突然訪れた。
「オウリュウ、流星群最終奥義—龍破弾!!」
最後の指示を受け、オウリュウはダメージを感じさせない速度で急上昇し、高速回転しながら、流星群を放った。その弾数もサイズも速度も桁違いだ。
唸りを上げて撃ち出された流星群を前にレッドは笑みを浮かべて迎え撃った。
「ピカチュウ、ボルテッカー、最大出力!!」
「ピィィカァァァッ!!」
レッドの指示を受けたピカチュウは膨大な電撃を帯びて、光の弾丸となって降り注ぐ流星群に飛び込んだ。己の体を砕かんとするエネルギーの塊に臆することなく、その奥にいるオウリュウに向かって突き進む。—威力はあるとはいえ、直線的な攻撃だ。流星群の反動があるとはいえ、自在に空を飛べるオウリュウなら避けられなこともないだろう。しかし、オウリュウはボルテッカ—をまともに受け、落下する。また、飛行能力を持たないピカチュウも、空中で留まることができずに、オウリュウの後を追うように落下した。
「・・・オウリュウ!」
師匠の声に反応し、オウリュウは体制を整え、ピカチュウを空中でキャッチして、そのまま着地した。どうやら、まだ戦闘不能にはなっていないようだ。再び戦いが再開されるかと思われた、次の瞬間。
「・・・アタシの負けだね。」
そういうが早いか、師匠がオウリュウを引っ込めてしまったのだ。オウリュウ以外に使用したポケモンは全て戦闘不能になっている。公式戦では、戦闘継続の意思なしとして、敗北となる行為だ。その様子を見て、レッドは少し悲しそうな顔をして言った。
「・・・ずるいよ。こんな終わり方。」
「知るか、アタシの負けだっつってんだろ。帰るぞ、お前ら。」
それだけ言うと、師匠は踵を返して、登山道に向かって歩き始めた。
「・・・また、バトルしてね。」
レッドが呟いた言葉に師匠は一瞬立ち止まると、静かな声で言った。
「・・・覚えてたらな。」
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第21話「奇妙な来訪者」
突然帰ると言い出し、下山を始めた師匠に置いていかれないように、イヅチ、燭陰、輝脚は後を付いていき、グリーンはレッドと募る話があるとかでシロガネ山に残ることになった。
「・・・悪かったな。あんな戦い方をさせて。」
『文句を言えば止めたか?止めないだろうが。』
テンペスト号の師匠の部屋の中で師匠とオウリュウは言葉を交わしていた。
「あんなことしても何の意味もねえし、あいつが納得する訳でもねえ。・・・分かってんだよ。でも、いつもああなっちまうんだ。ったく、情けねぇったらありゃしねぇ。」
『・・・俺はお前が決めた事なら、文句は言わん。だが、ゼティスの奴はバトルに出さなかったから不満げだったがな。』
「だろうな。」
オウリュウの言葉に師匠は軽く吹き出しながら、少し哀しげに話し続けていた。
「どーした?おらっ」
「うわっ!?輝脚さん・・・。」
食堂でイヅチがぼんやりしているのを見た輝脚は、後ろから軽く頭を小突くとイヅチは心底驚いた様子で振り返った。どうやら輝脚が近くにいるのにも気付いていなかったようだ。
「師匠の事、考えてたろ?」
こちらが気にしている所を何の遠慮もなく突いてくる輝脚の態度に苦笑しながらイヅチは頷いた。
「・・・そうッす。まさか師匠がロケット団だったなんて・・・。輝脚さんも知ってたんでしょ?」
「ああ、もちろん知ってたぜ。それが?」
「それが?って・・・。」
輝脚の言葉に絶句しているイヅチに輝脚は言った。
「別に過去がどうとかは関係ねぇし、万が一、師匠が俺様を悪の道に引きずり込もうとしても、自分で考えて決めりゃいい話だ。大体、俺様が決めた師匠に間違いがある訳がないだろ!」
ガハハと笑いながらよく分からない理屈を持ち出してくる輝脚を見て、イヅチは少しだけ気持ちが落ち着いた気がした。
『おかえりなさい。』
「おう、ただいま。」
シロガネ山から無事に帰ってきた一行を入口のスピーカー越しにスレイグが労った。すると、スレイグは少し困った様子で、
『師匠〜、あの人、また来てるんですよ!何とかして下さいよ〜!」
スレイグの声を聞いて師匠は頭を抱えながら呟いた』
「懲りずに来るよな〜。あのジジイも。分かった。すぐ行く。」
スレイグにそう返すと、師匠は早足で基地の中に入って行った。
「あの人?」
「師匠の後に付いていけば分かりますよ。」
事情がいまいち飲み込めず、首を傾げているイヅチに燭陰はどこか可笑しげにそう言った。燭陰の言葉ももっともだと思ったので、イヅチは師匠の後を付いていくことにした。
「ほうほう、相変わらず高度なプログラムじゃのう。もちっと見せてくれんか?」
『マスターの許可がありません。認証しかねます。』
「ちょっと!あんまりいじらないでよ!」
「いいじゃろ?減るもんじゃなし。」
「・・・減るわ、ボケ。」
コントロールルームで勝手に端末をいじろうとしている老人とスレイグ、ホムンクルスが騒いでいるところに、師匠が突っ込みを入れながら入ってきた。
「師匠〜、待ってました!ガツンと言ってやってください!」
「あんたの性格も分かるし、興味が惹かれるのも分からなくはないが、基地のセキュリティーにも関わるから、あまりいじくりまわさないで欲しいって、言ったよなぁ、テッセンさん?」
すると、テッセンと呼ばれて老人は大笑いしながら返してきた。
「ウハハハ!そんなつもりはなかったんじゃよ。すまんの。じゃが、少〜しだけならいいじゃろ?」
「駄目だ。他を当たってくれ。」
「うむむ、相変わらず手強いのう。」
「たりめーだ。」
「では、わしとお前さんがバトルして、わしが負けたら、もうここに来て迷惑はかけんわい。その代わり、もしおまえさんが負けたら、ここのシステムについて教えてくれんか?どうじゃ?」
「・・・いやいや、わざわざバトルして決める程の事でもないだろ。さっさと帰・・・、いや、受けて立ってやるよ。ただし、アタシじゃなく、アタシの弟子がね。」
そう言うと、師匠は笑顔で振り向きながら言った。
「イヅチ、いるんだろ?出てきな。」
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第22話「弱さ」
「イヅチ、いるんだろ?出てきな。」
「・・・バレてたッすか。」
師匠に呼ばれ、イヅチは隠れていたコントロールルーム近くの通路から、部屋の中に入った。自分ではバレないように付いてきたつもりだったが、師匠には感付かれていたようだ。
「イヅチ、この爺さんとバトルしな。」
「へ?」
突然にこんな事を言われて、イヅチは一瞬思考停止してしまった。しかし、テッセンの方は何となく事情が呑み込めたようで、
「なるほど、わしは構わんよ。若者とのバトル、大いに結構!」
と笑いながら言った。それを確認すると師匠は、
「決まりだな。ルールは6対6。中で暴れられちゃかなわんから、外のバトルフィールドでやってくれ。」
「あの・・・、師匠・・・」
イヅチは何か意見を言いたそうにしたが既に遅かった。場の空気は完全にイヅチ対テッセンになってしまっていたのだ。
「審判は特別にアタシがやってやる。さっきも言ったが、6対6で、ポケモンの交代は自由な。先攻はイヅチからだ。試合開始。」
やる気があるのかないのかよく分からないテンションの師匠の号令と共に試合は開始された。
「わしの名はテッセン!ホウエン地方のキンセツシティジムリーダーをしておる。そして、わしの得意なポケモンは電気タイプポケモンじゃ!ウハハハ!それでは行くぞ!」
「はいッす!よろしくお願いします!」
正直まだ行ったことのない地方のジムリーダーとバトルすることになるとは思っていなかったイヅチだが、自分自身の力を試すいい機会と思い、気を引き締めた。
イヅチは正直、以前電気タイプポケモンをメインとするジムリーダーと戦った経験があったので、優位に戦えると思っていた。しかし、以前戦ったジムリーダーとは戦法が異なり、激しいバトルの末、かなりの接戦となっていた。
「エルレイド、サイコカッター!」
「ライボルト、電撃波で迎え撃つんじゃあ!」
双方の攻撃が激突し、大爆発を起こす。力を振り絞ったばかりの両者は爆風を喰らって、戦闘不能になった。
「エルレイド、ライボルト、両者戦闘不能。この勝負は引き分けな。」
「ライボルト、よくやった!ゆっくり休んでくれい!」
「エルレイド・・・、御苦労さまッす。」
これで両者の残りのポケモンは一匹となり、次で勝敗が決まることになった。
「やるのう!大したもんじゃわい。じゃが、わしの最後のポケモンに勝てるかな?ゆけい!ジバコイル!」
「ジババババ!」
テッセン最後のポケモンはジバコイル、強力な鋼・電気タイプのポケモンだ。それを見た師匠が意外そうに言った。
「・・・へぇ、進化させてたんだ。」
「まぁの。偶然、シンオウ地方に行く用事があったものでな。ついでに進化させたんじゃよ。」
そして、イヅチ最後のポケモン、なのだが、どういう訳かなかなか出そうとしない。
「どーした?早く出せよ。フルバトルできるんだろ?」
「あ・・・、はいッす・・・。行け、ハクリュー。」
「リューッ!」
イヅチがどこか遠慮がちに繰り出したポケモンはハクリュー、長く青い体に強力な力を有するドラゴンタイプのポケモンだ。
(ハクリュー?あいつ、あんなのも持ってたのか・・・。)
師匠は少し驚いた。度々イヅチのバトルを見たが、始めて見たポケモンだ。とはいえ、一つの地方のポケモンリーグを制覇しているのだから、ある程度のポケモンを持っていても不思議ではない。
「ハクリューか、相手にとって不足はないわい!ジバコイル、ミラーショット!」
「ハクリュー、しんそく!」
「!!」
ジバコイルが撃ちだした光弾を残像が残るほどの速度で移動しながらハクリューは避けきった。しかし、しんそくを習得しているハクリューなど、滅多にいるものではない。そして、師匠には一つだけそんなハクリューがいる場所に当てがあった。
(なるほどな・・・。少しずつ読めてきた。あいつは、イヅチは・・・)
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第23話「破門?」
「ジバコイル、放電じゃあ!」
「ハクリュー、守る!」
イヅチがハクリューを出してからしばらくバトルが続いているが、イヅチの指示が一気に崩れてきた、師匠はそう感じていた。普段なら、攻守のバランスがそれなりに取れたバトルをしているのが、うって変わって、今では守りに偏っている。守りつつ相手の隙を伺うのも戦法としてはありだが、ハクリューはそういう戦法に適したポケモンとは言い難い。
「・・・おいおい、守ってばかりだと話になんねぇぞ。しっかりやれよ。」
見かねた師匠がアドバイスするも、イヅチの様子がおかしい。バトルはしているが、心ここにあらずといった感じだ。他のポケモンを使っていた時と比べると、別人のようだ。
「俺は、俺は自分の事は自分で決めるッす!」
「!!?」
すると、突然イヅチが大声で叫び、ハクリューに指示を出した。
「ハクリュー、げきりん!」
明らかにおかしい指示だ。このタイミングで鋼タイプに出す技では無い。それでも、指示に従ったハクリューは凄まじいエネルギーを纏って暴れ出した。ジバコイルの頑丈なボディに尻尾がぶつかり火花を散らすが、大したダメージにはなっていない。この状況では、ハクリューが無駄に消耗するだけだ。
(こんなことも分からねぇ奴じゃ無いはず・・・。こりゃ、止めた方が良さようだな・・・。)
ジョウトリーグを制覇した時、自分は強くなって変われたと思っていた。だけど、周りの目は変わらなかった。—誰も自分の事を見てくれない。どうすれば見てくれる?・・・それは、ツヨクナルコト。ツヨクナレバ、ジブンヲイヅチトイウニンゲンヲミテクレル!その思いを胸に師匠に弟子入りしたのに、自分は強くなれていない。どうすれば強くなれる?それは、カツコト。ダレガアイテデモカテルヨウニナレバツヨクナレル。
もはや自分の目的さえも分からなくなっているイヅチには、ハクリューの疲労さえ分からなくなっていた。
「ジバコイル、これで決めるぞい!電磁砲!」
「ジバババババ!」
「ハクリュー、一気に攻撃するッす!」
「リュー!」
両者の最大の攻撃が激突するかと思われたが、それは師匠が繰り出したハガネールによって防がれた。
「・・・そこまでだ。テッセンのじいさん、こんなくだらんバトルをさせて悪かった。この勝負はあんたの勝ちでいい。」
「!師匠、どうして邪魔をするんッすか?」
テッセンに頭を下げ、バトルを終わらせようとする師匠に思わずイヅチは反論していた。
「・・・本当に分からねぇのか?」
「分からないッす!もう少しで勝てたのに・・・」
バシッ!
イヅチが全てを言い終わる前に、師匠の張り手がイヅチの頬に決まった。
「・・・理由も分からねぇようじゃ、弟子どころか、トレーナー失格だ。イヅチ・・・、お前、故郷へフスベシティに帰れ。」
「・・・!!」
トレーナー失格と言われた事と、師匠にも言ってない自分の故郷に気付かれた事でイヅチは目を見開いた。師匠は続けて言った。
「お前は、フスベシティの竜の祠を守る一族の跡取りって所だろう。そうでもない限り、神速を覚えたハクリューを持っているトレーナーなど、まずいないからな。」
「・・・俺は、俺は望んでそう生まれてきた訳じゃ無いッす!自分の道は自分で決めるッす!」
その言葉を聞いて、師匠は今まで見たことないほど怖い顔をして冷酷に言い放った。
「大した実力も無いくせに笑わせるぜ。そこまで言うなら、誰かに教えを請う必要もねぇだろ。・・・今日限りで、破門だ。」
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第24話「極限の迷宮」
「すまんのう。わざわざ見送りに来てもらって。」
「いえいえ。」
燭陰は、基地のシステムを一通り見て満足して帰ろうとするテッセンの見送りに来ていた。
「ところで、あの少年は本当に破門になってしまうんじゃろうか?」
「さぁ、どうでしょうね。イヅチ君が師匠の課す試練を乗り越えられれば良いのですが。」
「試練とな?」
聞き返すテッセンに燭陰は頷きながら続けた。
「実の所、私達は皆、一度は破門にされかかったんですよ。そして、全員が師匠の課す試練を乗り越えて弟子を続けてきたんです。言い方は悪いかもしれませんが、イヅチ君にもそういう時期が来たというところでしょうか。」
「避けては通れん試練・・・という訳か。」
「ええ、ただし・・・、並みの覚悟では乗り越えられない内容ですし、下手をすれば命に関わるかもしれません。」
「・・・覚悟、か。」
「エルレイド、サイコカッター!」
「レイド!」
「キノ〜!」
エルレイドのサイコカッターの直撃を受けたキノガッサは、起き上がるとその場から逃げだした。
「ふぅ・・・。」
一息ついたイヅチは、師匠の言葉を思い返していた。
事の始まりは、テッセンとのバトルを終えた後、急に破門を言い渡されたイヅチは必死に破門を取り消してもらえるように頼みこんだ。すると、師匠に付いて来るように言われ、ある場所まで案内された。
そこは基地の中にある一つの扉の前。とはいえ、普段は立ち入りが禁じられていたので、来るのは初めてだ。そして、師匠は扉を指差して言った。
「・・・この扉の先は『極限の迷宮』。アタシが作った迷宮さ。どうしてもアタシの弟子のままでいたいなら、ここを抜けるだけの覚悟を見せな。中にはアタシが育てたポケモン達がうろついてる。回復アイテムについてはこの袋の中から自分で判断して使いな。食料も中に入ってるからな。もちろん抜けられなきゃ諦めてもらう。いいね?」
この試練を乗り越えないと後は無い、イヅチにもそれは分かった。そして、イヅチは重々しく返事をした。
「・・・はいッす。」
そして、現在に至る訳だ。『極限の迷宮』に入って2時間程経っただろうか。袋の中に入っていた所々虫食いのある地図を見ながら進んでいるのだが、現れるポケモン達の強さが尋常ではない。以前のシロガネ山の野生ポケモンとは比べ物にならない。それも、広々とした屋外ではなく、限られた空間の中で突然に遭遇して、襲いかかってくるのだ。常に周囲に気を配っていないと対応できない。回復アイテムも限られている中、肉体的にも精神的にも追い詰められているのが分かる。しかし、分からないのが、何故師匠が突然に破門を言い渡したか、だ。自分は破門にされるほどの事をしただろうか。まだその理由も分からないまま、イヅチは迷宮を進んで行った。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第25話「灼熱の黒獣」
「なぁ、イヅチの奴、無事に出て来るかな?」
「・・・知らん。」
基地の外側の山の畑でサムとブライが話していた。師匠のポケモン達は『極限の迷宮』に行っているので、代わりに畑の番をしているのだ。
「冷たいな。お前も兄弟子の一人だろ。」
「俺には関係ない。俺は、師匠を超えられる強さを身に付けられれば、それでいい。」
ブライの言い分を聞いて、サムは苦笑した。ブライとはそこそこ付き合いが長い。こうは言っているが、彼は彼なりに心配しているのだ。正直にそれが言えない辺りが彼らしい。イヅチが受けている試練はサムも受けた事があるが、本当にあの時は死すらも感じた。他の兄弟弟子たちも苦戦を強いられたと言う。イヅチが無事に試練を乗り越えられる事を密かにサムは願った。
『極限の迷宮』に入って、2日半ほど経っただろうか。出て来るポケモン達の攻撃は熾烈を極め、回復アイテムもほとんど使い果たし、イヅチもポケモン達も限界に近付きつつあった。
時折設置されている水道で渇いた喉を潤す。食料も一日分しかなく、空腹で目が眩みそうになる。それでも、訳も分からず破門にされたくはない、という思いがイヅチを支えていた。
それから数時間後、地図によれば、あと僅かで最後の出口という所まで来た。目の前には石の扉があり、その先には大広間があるようだ。そして、イヅチは意を決して扉を開けた。鈍い音を立てながら扉は開き、扉の向こうから熱風が吹いてきた。そして、その先に地図にあった通り、大広間が広がっていた。大広間には、ポケモンが一匹居た。黄色がかった毛皮の背中部分は黒い毛皮に覆われており、首元には炎が噴き出す器官が存在している。いわゆるバクフーンと呼ばれるポケモンだ。イヅチが入ってきた事に気付いたバクフ—ンは、天を仰いで咆哮した。
「バァァァックゥゥッ!!」
バクフ—ンの背後には、入口を同じような石の扉がある。おそらく、通りたければ戦うしかない、という事なのだろう。しかし、度重なる戦いで、エルレイドとハクリュー以外のポケモンは、消耗しきっている。ここは、有利なタイプを持っているポケモン—ハクリューで戦う事をイヅチは決めた。
「ハクリュー、行くッす!」
「リュー・・・。」
モンスターボールから出たハクリューは、テッセンとのバトルの事を気にしているのか、時折こちらの顔色を窺っている。
「ハクリュー、何をしてるッすか!戦いは始まってるッすよ!」
イヅチはハクリューに注意を促すと、相手の出方を見る事にした。とにかく、相手の技を見極めないと迂闊に攻撃できないと考えたからだ。
そして、バクフ—ンは動き出した。
「バァァァックフゥーンッ!!」
一際大きく吠えると、バクフ—ンの足元から、熱が、炎が、溶岩が噴出した。炎タイプの大技—噴火だ。マグマと共に火山弾を放って攻撃する技だ。しかし、様子が違う。溶岩はハクリューに襲いかからずに、グネグネと動きながらバクフ—ンの体に纏わりついていく。凄まじい熱気を放つ溶岩が纏わりついているのに、バクフ—ンは平然としている。元々、火山ポケモンと呼ばれるだけに熱には強いのだろうが、驚異的な光景だ。そして、纏わりついた溶岩は、冷えて固まっていく。やがて、そこには溶岩の鎧で身を固めた黒き獣が立っていた。岩が擦れるような音を立てながら、バクフ—ンは上体を仰け反らせ、熱線を放った。・・・正確には、途方もない熱により、熱線と化した火炎放射を。
さながら光の槍と化した火炎放射は信じられない速度で、イヅチとハクリューに襲いかかる。目の前の光景に茫然としていたイヅチは我に返って指示を出した。
「ハクリュー、守るッす!」
「リュー!」
間一髪で間に合った『守る』のバリアーに凄まじい圧力と共に火炎放射の熱線が激突する。攻撃自体は防いでいるが、皮膚を焼くような熱気がイヅチとハクリューを間接的に消耗させる。熱線が防がれた事が分かると、バクフ—ンは次の攻撃に移った。地面を揺らしながら、イヅチとハクリューに向かって突っ込んでくる。そして、その前足には電気が爆ぜている
、かみなりパンチだ。イヅチは迎え撃つべく、今度は攻撃の指示を出す。
「ハクリュー、アクアテール!」
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第26話「忘れていた事」
バクフ—ンのかみなりパンチとハクリューのアクアテールが激突する。体格的には大差がないはずの両者だが、バクフ—ンが溶岩の鎧を纏っているせいか、ハクリューは弾き飛ばされてしまった。更に追い打ちをかけるようにバクフ—ンは熱線状の火炎放射を放つ。
「ハクリュー、かわすッす!」
「!リュー!」
間一髪間に合い、何とか熱線の軌道上から逃れる事が出来た。ハクリューを捉え損なった熱線は壁に命中し、石の壁を赤く燃えたぎらせる。
(あんなの、まともに喰らったらヤバいッす・・・。)
ドラゴンタイプのハクリューは炎タイプの技には強い。だが、それにも限度がある。桁違いの攻撃を受ければ、大ダメージは避けられない。かみなりパンチで迎撃される可能性はあるが、接近戦に持ち込むのが妥当だろう。
「ハクリュー、しんそく!」
高速で肉薄するハクリューにバクフ—ンは対応しきれずにいる。
(やっぱり、体が重くなって、動きが鈍っているッす!)
攻撃力と防御力を上げる重い溶岩の鎧にも弱みはあるのだ。
「今ッす!アクアテール!!」
完全に死角を狙ったアクアテールは溶岩の鎧に命中し、水をまき散らす。
「バクゥッ!?」
乾いた音を立てて、溶岩の鎧に亀裂が入るが砕くには至らなかった。
「もう一回ッす!」
「リュー!」
今度こそ鎧を砕くべく、追撃を加えようとするイヅチとハクリューだったが、それは叶わなかった。
「バァクゥゥッ!!」
バクフ—ンが前足を突き出し力を込めると、アクアテールの体勢をとっていたハクリューが見えない力で吹き飛ばされた。
「!!今のは・・・、念力?いや、神通力!?」
以前ジョウトで旅をしていたときに聞いた事がある。あるポケモンの♂とヒノアラシの♀を育て屋に預けると、神通力を覚えたヒノアラシが生まれる卵が見つかる事があるという事を。おそらく、目の前のバクフ—ンはそういう個体で、神通力であの溶岩の鎧を可能としているのだろう。
「ハクリュー、しっかりするッす!」
神通力で吹き飛ばされ、目の前に落下したハクリューを叱咤するイヅチ。またしても、イヅチの頭の中は『勝つ事』で埋め尽くされていた。しかし、ダメージが溜まり、ハクリューはすぐに起き上がれない。
そこへ、鎧を傷つけられ、頭に血が上った様子のバクフ—ンが熱線を放ってきた。ハクリューはもちろん、イヅチにも直撃の危険性がある軌道だ。完全に虚を突かれ、すぐには足が動かない。当たる!そう思ったイヅチの視界を青い影が遮った。
「ハクリュー!?」
「リューッ!」
力を振り絞ったハクリューがイヅチを庇ったのだ。イヅチの目の前で、熱線は無慈悲にハクリューに直撃し、爆発を起こした。たまらずハクリューは倒れ伏す。
「ハクリュー・・・」
続く言葉が無かった。何を言ったらいいのか分からない。間違いなくやられていたのは自分だ。それをハクリューは、こうなることが分かったうえで庇った。ハクリューをまじまじと見ると、熱線による火傷の他にも傷が目立つ。どれもこれもこの部屋に至るまでにできた傷だ。その傷の全てが自分の期待に応えようとして出来た傷。
その時、やっとイヅチは気付いた。自分が忘れていた事を。弟子入りの試験の事を。あれは、トレーナーの観察眼を養って、ポケモンの負担を減らすためのものだったのだ。なのに、自分は弟子入りまでしておきながら忘れていた。勝つ事に執着して、ポケモンと戦っている事を忘れていた。それでは、ポケモンバトルの意味がない。そんな事まで忘れていたなんて。
そんな自分が情けなく感じたイヅチだったが、顔をあげてバクフ—ンを睨みつけた。勝つためじゃなく、ハクリューの思いを無駄にしないために。最後の一つとなった元気の欠片をハクリューに与えて休ませると、エルレイドをモンスターボールから出し、語りかけた。
「エルレイド・・・、俺は駄目なトレーナーッす。いつも皆に助けられてるのに、その事を忘れていたッす。でも、もう忘れない。俺に力を貸して欲しいッす!」
「レイド。」
イヅチの目を見てエルレイドはしっかりと頷いた。イヅチの本当の戦いが始まった。
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第27話「アーマード・ブレイク」
傷ついたハクリューを休ませ、エルレイドと戦い始めたイヅチだったが、徐々に押され始めていた。離れれば強力な熱線、近づけば重量を乗せた打撃で押し返され、攻めあぐねていた。
「エルレイド、サイコカッター!」
「レイドッ!」
渾身の力で放たれたサイコカッターも、熱線と化した火炎放射に焼き尽くされる。更に部屋に充満した熱気がイヅチとエルレイドから容赦なく体力を奪う。空腹と疲労で一瞬目が眩む。—そう、それは一瞬の隙。しかし、本能的に好機と判断したバクフ—ンは畳みかけて来る。地鳴りを起こしながら、かみなりパンチを仕掛けてきた。
「エルレイド、インファイトッす!」
辛うじて反応したイヅチは、技の指示を出すが、エルレイドも疲労が溜まっていた為か、すぐには動けない。そんなエルレイドにかみなりパンチが直撃し、エルレイドの体は軽々と吹き飛ばされる。
「エルレイドッ!」
必死に起き上がろうとするエルレイドにバクフ—ンがとどめをさそうと歩み寄る。
「させないッす!」
イヅチはエルレイドを庇うようにバクフ—ンの前に立ち塞がった。
(大切な仲間をこれ以上傷つけさせないッす!)
邪魔をしようとするイヅチから倒そうと、バクフ—ンがかみなりパンチの構えに入る。溶岩の鎧に覆われた前足が、電撃により発光する。エルレイドがダウンするほどの一撃だ。人間が喰らって無事でいられる保証など無い。しかし、イヅチに引く気はなかった。
そして、かみなりパンチがイヅチに振り下ろされた。
「・・・!?」
だが、痛みは感じない。思わずつぶってしまった目を開けると、イヅチは空を飛んでいた。正確には、あるポケモンに間一髪でエルレイドと共に助けられて。黄土色の巨体と立派な翼、威風堂々として神秘的なポケモン—カイリューだ。
「バクゥッ!」
邪魔をされたバクフ—ンは、イヅチ達を助けたカイリュー目掛けて熱線を放つが、カイリューは、まもるで完全に防いでみせた。
「まもる!?お前・・・、ハクリューッすか?」
「リューッ!」
イヅチの問いかけにカイリューは雄々しく吠えながら頷く。そして、イヅチとエルレイドを優しく地面に降ろすと、バクフ—ンの前に立ち塞がった。
「もしかして・・・、また一緒に戦ってくれるッすか?」
「リューッ!」
カイリューは、しっかりと頷いた。イヅチはエルレイドをモンスターボールに戻すと、しっかりとバクフ—ンを見据えて言った。
「ありがとう、カイリュー。この戦い、絶対に負けられないッす!」
「リュッ!」
「バァクゥゥッ・・・」
イヅチ達を目掛けて、バクフ—ンは再び熱線の構えに入った。
「カイリュー、しんそく!」
「リュッ!」
カイリューは巨体を一気に加速させ、バクフ—ンに肉薄した。速い、ハクリューのそれとは桁違いのスピードだ。あまりのスピードに驚き、バクフ—ンの動きが鈍る。
「アクアテールッす!」
その隙を逃さず、バクフ—ンの鎧に覆われた顔面にアクアテールを叩きこむ。流石に溶岩の鎧で重量を増したバクフ—ンは、踏みとどまったが、アクアテールが炸裂した顔面の鎧は、岩が砕けるような音と共に砕け散った。
お返しとばかりにバクフ—ンは至近距離から火炎放射を放つが、顔面の鎧を失ったせいか、それは熱線とならず、普通の火炎放射だった。
「かわして、しんそく!」
「リューッ!」
速度も威力もがた落ちした火炎放射を難なくかわし、しんそくの速度を乗せたタックルを見舞う。すると、先程砕けた鎧の周辺に亀裂が生じ、ボロボロと崩れていく。苦し紛れに神通力を放つバクフ—ンだが、イヅチはまもるを指示し、これを完全に防いだ。
「バァァクゥゥ〜ッ!!」
怒りに震えるバクフ—ンは、再び噴火を放つべくエネルギーを溜め始めた。しかし、ダメージを受けているせいか、なかなか発動できない。
「カイリュー、しんそくから逆鱗ッす!」
「リューッ!」
イヅチの指示を受けたカイリューは、しんそくでバクフ—ンに肉薄し、渾身の攻撃を放つ。
「バクッ!」
強烈な一撃で、鎧の亀裂が広がり、溜めていた噴火のエネルギーと共に暴発した。
轟音と共に爆風が部屋を駆け巡るが、イヅチはカイリューのまもるのおかげで無事だった。やがて、煙の中からバクフ—ンが姿を見せた。溶岩の鎧を完全に失い、ダメージも浅くないようだが、戦闘不能にはなっていない。
(まだ、やれるんッすか?)
戦いを続けようとするイヅチとカイリューをよそに、バクフ—ンは先程までの様子が嘘の様に、部屋の喚起口の蓋を外すと、そこから立ち去って行った。どうやら、戦闘意欲が無くなったようだ。
「・・・やった、やったッす!カイリュー!」
「リューッ!」
イヅチとカイリューは思わず抱き合って喜んだ。
「カイリュー、ありがとう。これからもよろしくッす!」
「リュ〜ッ!」
イヅチの言葉に、カイリューは嬉しそうに頷いた。
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第28話「試練の間」
少し休んでから、イヅチは部屋の奥にある扉を開けた。地図によれば
通路があるだけなのだが、イヅチは驚いた。
「・・・来たか。」
「おそーい!」
通路があるはずのそこは、小部屋となっており、ローブ姿の男と少年が床に座ってトランプをしていた。
「えっと・・・、ここは?」
状況が飲み込めないまま、恐る恐る聞くと、男と少年が立ち上がって答えた。
「ここは安らぎの間。出口へと至る試練の間に備える場所。俺達は、お前の師匠に言われてここでお前を待っていた。」
「たかかいできずつき、つかれたからだではこのさきのしれんのまをぬけられない。ここでやすんでいきなよ。」
彼らが指し示した先には、食料や薬が置いてあり、寝袋らしき物もある。どうやら、ここで体を休めろという事なのだろう。逆に言うと、最後の試練の間は、そうでもしないと抜けられないという事なのだろう。
イヅチはお言葉に甘える事にして、食事をとり、手持ちポケモンに薬を使い、仮眠をとる事にした。
数時間ほど眠っただろうか、まだ疲れは抜けきっていないが、格段に楽になった。イヅチが目覚めた事に気付いたローブ姿の二人は、イヅチに語りかけた。
「・・・本当にこの先へ行くのか?一応、ここで諦めて故郷へ帰る事もできるぞ。」
「このさきにまつのは、げんかいをためすば。さっきのへやがこいしくなるほどのばしょだよ。」
・・・今なら帰れる、その事を聞いてもイヅチの決意は揺るがなかった。自分に足りなかった物が分かった。必ず、ここを抜けて、師匠にそれを伝えたかったのだ。
「俺達は、先に行くッす!」
「いいだろう。だが、この先に持ち込める手持ちポケモンは3匹までだ。残りは、このパソコンでボックスに預けてもらうぞ。」
ローブ姿の男は、笑みを浮かべると、部屋の隅のパソコンを指した。
「・・・分かったッす。」
ポケモンを選び終えたイヅチは、試練の間への扉の前まで歩いて行った。そして、扉の前で自分に軽く気合を入れると、扉に手を掛け、試練の間へと入っていった。
「・・・さて、あいつはどうなるかな?」
「しななきゃいいけどね〜。ところで、はやくもとにもどろうよ。にんげんでいるとつかれる。」
「そうだな。」
イヅチを見送ったローブ姿の2人は言葉を交わしながら、部屋から立ち去ったのであった。
「ここが・・・、試練の間・・・。」
扉の先にあったのは、遺跡を模した足場があり、部屋の半分ほどが水で満たされた巨大な部屋だった。そして、バクフ—ンと戦った部屋と同様に、部屋の一番奥には扉がある。室内であるという事を除けば、ジョウト地方のアルフの遺跡にもどことなく似ている。
そして、彼らは唐突に現れた。いきなり水面が水飛沫を上げたかと思えば、青色の身体が水中から飛び出した。全体的に細く短い身体をしており、尾は丸められている。特徴的なのはその顔で、まるで銃や大砲の様に何かを発射しやすくなっている。キングドラと呼ばれるドラゴンタイプのポケモンだ。
2体目は、キングドラと正反対の水辺から一気に飛び出した。黄土色の巨体と、それにそぐわぬ短めの翼—カイリューだ。
そして、3体目は・・・
「シャギャアァァァァァッ!!」
地の底から響くような鳴き声をたてながら、部屋の上部の天窓から現れた。黒と青の身体と、立派な飾りのある頭部と、小さな頭部が2つ。そして、紫色の瞳が不気味にイヅチを睨み据える。実物を見るのは初めてだが、イッシュ地方のドラゴンタイプポケモン、サザンドラだ。
「ドラゴンタイプが3体・・・!」
ドラゴンタイプのポケモンが相手であるだけで、かなりのプレッシャーを感じるが、それだけではない。今までこの『極限の迷宮』で戦ってきたポケモン達、あのバクフ—ンからも感じなかった程の気迫が感じられる。上手くは言えないが、危険な気配がするといったところだ。
しかし、彼らは自分達の存在を示してから、攻撃を仕掛けてくる気配がない。どうやら、イヅチがポケモンを繰り出すのを待っているようだ。
「やるしかないッす!行くッす、カイリュー、エルレイド、デンリュウ!」
「リューッ!」
「レイドッ!」
「パルルッ!」
カイリュー、エルレイド、デンリュウ、この3体がイヅチが選んだポケモンだった。そして、イヅチのポケモンを確認するや否や、試練の間のドラゴンポケモン達は攻撃を開始した。
相手のカイリューが、一気に加速して突っ込んできた。さすがに飛行速度に定評があるだけにかなり速い。だが、こちらも速度で負ける気はない。
「カイリュー、しんそくッす!」
「リューッ!」
イヅチのカイリューは、相手を上回る速度で相手に突撃する。こうして、試練の間での戦いが始まった。
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第29話「賭け」
突撃してくる相手のカイリューに、イヅチのカイリューはしんそくを仕掛けた。上手くいけば出鼻をくじく事が出来る・・・そう思っていたイヅチであったが、上手くはいかなかった。
なんと、相手のカイリューが急停止したのだ。思いもしない行動でかく乱するのが目的かと思われたが、そうではない。巨体を無理やり停止させたせいで、強風が発生したのだ。突如として発生した強風は、大きな水しぶきを上げた。開けていた視界が一気に悪化した。更に、同時にぼうふうを使用していたらしく、強烈な風がイヅチとポケモン達に襲いかかった。
「デンリュウ、ひかりのかべ!」
「パルッ!」
これで特殊技であるぼうふうによるダメージを減らす事が出来るはずだ。しかし、それも長くは続かなかった。
「リュッ!」
水飛沫を引き裂くように突っ込んできた相手のカイリューが、ひかりのかべを殴りつけた。その一撃でイヅチ達を守ってくれるはずだったひかりのかべは呆気なく砕け散ってしまった。
「・・・ッ!かわらわりか。」
ひかりのかべの破片から顔を庇いながら、イヅチは呟いた。何かしらのきっかけでも作れればと思っていたが、展開を予測されていたようだ。
「ドラッ!」
カイリューに気を取られていると、いきなり目の前の水面からキングドラが顔を出し、冷凍ビームを放ってきた。狙いはエルレイド、さすがにエルレイドも警戒はしていたので、直撃はしなかった。しかし、
「しまった!」
「レイド!?」
確かに狙いはエルレイドだった。ただし、エルレイドの腕。それも初めから分かっていたかのように利き腕に命中し、凍りついてしまった。これでは、思ったような攻撃がしにくくなってしまう。
「カイリューは相手のカイリューにしんそく、デンリュウはキングドラにかみなり!」
相手のカイリューに牽制しつつ、キングドラにダメージを与えようと指示を出すが、しんそくはすんででかわされ、かみなりは命中する前にキングドラが水中に逃げてしまった。空振りしたかみなりが着弾点の水を蒸発させる。そして、イヅチは恐ろしい事に気づいてしまった。先程から、サザンドラが全く動いていない。自分達は、相手のカイリューとキングドラに翻弄されているのだ。愕然とするイヅチに隙を見た相手のカイリューが、猛烈な勢いで突撃してきた。—ドラゴンダイブだ。しかも、細かく蛇行しながら突っ込んできた。これでは狙いが分からない。
「皆、その場を離れるッす!」
狙いが分からない以上、下手な指示はできない。一斉にその場を飛び退く。狙いは、イヅチ。直撃こそしなかったが、凄まじい反動で吹き飛ばされ、背中から壁に激突する。
「ッ痛・・・!」
一気に肺の中の空気が押し出されるが、イヅチは負けなかった。
「エルレイド、相手のカイリューにサイコカッター!」
「レイドッ!」
エルレイドが片手で器用にサイコカッターを放つが、いつもの調子が出ず、易々とかわされてしまう。更に、一瞬の隙を突くようにキングドラがエルレイド目掛けて、ハイドロポンプを放ってきた。
「カイリュー、エルレイドをまもるッす!」
「リューッ!」
ギリギリでイヅチのカイリューがまもるでハイドロポンプを空中で受け止めた。しかし、ここでイヅチは賭けに出ていた。
「デンリュウ、今ッす!」
「パルルッ!」
「ドラッ!?」
宙に浮かぶイヅチのカイリューの下を滑り込むような形で後ろに隠れていたデンリュウが飛び出してきたのだ。
完全に想定外だったのか、キングドラの動きがほんの一瞬だが、確実に止まった。イヅチが狙っていたのは、この隙だ。
「デンリュウ、かみなり!」
「パルルゥッ!」
「ドラァァァッ!」
渾身のかみなりが光の柱となってキングドラの身体を貫いた。いくら水タイプの弱点をドラゴンタイプで補っているとはいえ、ノーダメージとはいかないだろう。キングドラがよろめき、動きが鈍ったように見えた。どうやら運良く麻痺状態に陥ったようだ。
「リューッ!」
同胞の危機に反応した相手のカイリューがイヅチ目掛けて突撃してきた。
「エルレイド、相手のカイリューにサイコカッターッす!」
「レイドッ!」
エルレイドは渾身のサイコカッターを両手で放った。その様子に気づいた相手のカイリューは素早く反応して回避行動に入るが、何発かが浅く命中する。—そう、イヅチは僅かな隙を使って『安らぎの間』から持ってきたなんでもなおしでエルレイドの氷を解かしていたのだ。一瞬でもタイミングがずれていれば、相手に気づかれて妨害されかねないが、上手くいったようだ。
(小さなチャンスを見逃さなければ、勝てるッす!)
そうイヅチが確信した瞬間だった。遥か頭上が激しく光った。それは、今までイヅチ達の戦いを静観していたポケモン—サザンドラが放ったものだった。しかし、イヅチはそれが何かを判断するより先に直感で指示を出した。
「カイリュー、フルパワーでまもるッす!」
その刹那、轟音と共に、異様なほど太い熱線がまもるごとイヅチのカイリューを飲み込むよう襲いかかったのだ。
「カイリューッ!!」
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第30話「限界的突破」
「カイリューッ!!」
不意に浴びせかけられた破壊光線をイヅチのカイリューは何とか防ぎきる事が出来た。しかし、凄まじい威力のためか、後ろに下がってしまい、かなり疲労してしまったようだ。このままでは追撃を受ける可能性もあるので、イヅチは相手の注意をカイリューから逸らすことにした。
「エルレイド、サイコカッ・・・!」
(しまった!)
イヅチが指示を叫ぶ前に体勢を立て直した相手のカイリューが仕掛けていた。狙いは、一時的に大きくエネルギーを消耗し、疲弊しているイヅチのカイリュー。一気に間合いを詰めた相手のカイリューは、イヅチのカイリューの頭部を鷲掴みにした。
「カイリュー、振りほどくッす!」
「リュ〜ッ!」
しかし、相手の攻撃の方が一瞬早かった。鷲掴みにした腕から、火花を散らしながら電撃が流される。かみなりパンチだ。カイリューは飛行タイプの弱点である電気をドラゴンタイプで補っているが、疲労状態に加えてゼロ距離からの攻撃だ。ただで済むはずがない。やがて、電撃による攻撃を終え、ぐったりとしたイヅチのカイリューを相手のカイリューは片腕で易々と投げ飛ばした。いつもなら空中で体勢を立て直すことも可能なのだが、疲労とダメージのせいか、そのまま水の中に落ちてしまった。
そこにとどめを刺そうとキングドラがイヅチのカイリューに冷凍ビームを放とうとするが、麻痺により不発に終わったようで、反撃を警戒してか距離をとった。
きっと、カイリューなら・・・、信じてイヅチは指示を出した。
「カイリュー、しんそく!!」
「リューッ!」
息を吹き返したイヅチのカイリューが水中から飛び出し、相手のカイリュー目掛けて突撃した。攻撃自体は紙一重でかわされたが、体勢を立て直すことはできた。しかし、ただ一度のサザンドラの攻撃でここまで狂わされたのだ。このままでは・・・
(このままじゃ、勝てないッす!・・・勝つ?)
遠くに見える扉を見て、イヅチは歯噛みするが、ふとあることに気付いた。そして、その瞬間、イヅチにある作戦が思いついた。
チャンスは限られている。だが、今の自分達の実力ではこの3体のドラゴンポケモンを倒すことは不可能だろう。そう考えたうえでの作戦だ。覚悟はできている。そして、
「デンリュウ、シグナルビームッす!」
「パルッ!」
イヅチの指示に応え、デンリュウの額の発行体から色を変えつつ直進する光線が放たれた。虫タイプの技であるシグナルビームがもっとも有効なのはサザンドラだ。しかし、シグナルビームは真っ直ぐに、水面を撃った。光が乱反射し、相手を幻惑する。
「今ッす!」
その瞬間、イヅチはポケモン達と走り出していた。思いもしない攻撃で相手の動きは止まっているが、長くは持たない。
(早く、あの扉へ!)
—そう、イヅチが考え付いた作戦は、『扉を抜ける事』。作戦というには単純すぎるが、相手の攻撃はある程度しのぎつつ、この部屋を抜けてしまえさえすれば、試練自体は終わるのだ。無理に戦えば、確実にやられる。その事が先程の破壊光線とかみなりパンチではっきり確信できたからこそ思いついた作戦だ。
光に幻惑されたドラゴンポケモン達は、完全に攻撃を停止していた。当てずっぽうに攻撃しては味方に命中する可能性があると判断したからだろう。その隙にイヅチ達は、点々とある足場を辿って扉に向かって走る。
「シャギャアァ!」
「リュッ!」
「ドラァァッ!」
部屋の真ん中まで来た辺りで、ドラゴンポケモン達はようやく幻惑状態を解除した。そして、イヅチ達の位置を補足すると、再び襲いかかってきた。だが、それも予想の範疇だ。
「デンリュウはかみなり、エルレイドはサイコカッター!」
「パルルッ!」
「レイド!」
両者の攻撃がまたしても水面を捉え、大量の水蒸気を発生させ、イヅチ達の姿をくらませる。しかし、今度は相手のカイリューの起こした暴風で水蒸気はかき消されてしまった。それでも僅かにできた隙を活かして、イヅチ達は先を急ぐ。どんどん扉が近づいてきた、あと僅かだ。
「!リューッ!!」
カイリューの警告の声に反応し、今いる足場から、次の足場まで一気にジャンプする。それとほぼ同時に、先程の足場に黒いエネルギーの渦が直撃した。エルレイドとデンリュウはうまく着地できたが、イヅチはギリギリで届かず、水に落ちてしまった。水にむせながら、顔を上げたイヅチは何が起こったか、はっきり分かった。先程まで進んで戦いには参加していなかったサザンドラが悪の波動で攻撃してきたのだ。しかも、先程の破壊光線のように上空から撃ったのではない。低空を飛行し、イヅチ達を追いながら撃ってきたのだ。イヅチを狙って攻撃しようとするサザンドラだが、デンリュウが放ったシグナルビームがそれを阻む。そこへキングドラと相手のカイリューもイヅチに向かってきたが、今度はエルレイドがサイコカッターで牽制した。指示は出していない、デンリュウとエルレイドが自ら判断して攻撃したのだ。そして、イヅチのカイリューはイヅチを庇うようにすぐ傍を飛んでいる。全力でイヅチを援護しようというのだ。イヅチは自然と涙があふれていた。ここまで自分を信じてくれている、それが何よりもイヅチの力となった。
「シャギャアァァッ!」
なおもイヅチに襲いかかるサザンドラをイヅチのカイリューがしんそくで撹乱する。更に、相手のカイリューはエルレイドが、キングドラはデンリュウが牽制の攻撃を放って足止めをしてくれた。
「皆・・・!」
その瞬間、イヅチとポケモン達の目が合った。そして、ポケモン達の目は語っていた。『俺たちに任せて、先を急げ!』と、イヅチは頷くと扉に向かって走った。扉を目前とした足場に着地した瞬間—
「リューッ!!」
カイリューの叫び声と共に背後から、凄まじい光が溢れ、イヅチの身体は吹き飛ばされた。一瞬の隙をついてサザンドラがイヅチに向かって破壊光線を撃ったのだ。すんでの所でイヅチのカイリューがタックルを喰らわせて軌道を逸らしてくれたおかげで、イヅチは爆風に吹き飛ばされただけで済んだ。しかも、運よく扉の目の前に落下したのだ。しかし、今まで溜まりに溜まった疲労と身体の痛みですぐに起き上がれない。意識も遠のきかけていたが、イヅチの耳には聞こえていた。イヅチから注意を逸らそうと奮戦するポケモン達の戦う音が。
「ま、まだ・・・、やれる・・・、や・・・らないと・・・。」
やっと大切なものに気付き、ポケモン達に助けられてここまで来たのだ。諦めることなどできない。イヅチは、最後の力を振り絞り立ち上がって、扉の前に立った。しかし、そこでイヅチの意識は途絶えた。
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第31話「エニシダという男」
白く靄がかかった空間—そこにイヅチはいた。自分はどうなったのだろう、ここは天国?それとも・・・
—シクシク
「?」
離れた所から、誰かのすすり泣きが聞こえた。誰かがいる、そう判断したイヅチはすすり泣きの聞こえる方へと歩き出した。
そこには一人の少女がいた。年齢は10歳前後だろうか、その体には包帯が巻かれ、痛々しい血の跡まで滲んでいる。不思議に思ったが、イヅチは話しかけてみる事にした。
「ねぇ、どうして泣いてるッすか?」
いきなりイヅチに話しかけられ、少女はビクッと身をすくませるが、小さな声で話し始めた。
「————が良い子じゃ無かったから、カミサマがお父さんとお母さんを天国に連れて行っちゃったの。良い子じゃ無かったから、————も怪我したの・・・。」
名前はよく聞こえなかったが、どうやら両親を喪って泣いているようだ。イヅチは励ましの声をかける。
「大丈夫。もう嫌なことは起こらないッすよ。」
—何が大丈夫だ、親を喪った悲しみなど知らないくせに。少女に声をかけながら、イヅチはそう思った。しかし、少女は少し笑顔を見せて言った。
「・・・うん、もう————は大丈夫。だって、この子が一緒に居てくれるから。」
すると、少女の後ろに大きな影が現れた。生き物であろうことは分かるが、少なくとも人間ではない。何やら大きな翼のようなものがあるようだが・・・、そこでイヅチは目覚めた。
「ここは?あの子は?」
「おいおい、しっかりしろよ。夢でも見てたのか?」
混乱しているイヅチの耳にサムの声が入ってきた。それに気付き、周りを見ると基地にある医務室のベッドの上に自分は寝かされているのだという事に気付いた。
「夢・・・?・・・!試練は、俺のポケモン達は、どうなったんッすか?」
ようやく気を失う前の事を思い出したイヅチは、サムに聞くと、サムは着ぐるみの頭を掻きながら答えてくれた。
「大丈夫だ。合格らしいぞ。ちゃんとポケモン達も治療済みだ。お前もゆっくり休めよ、『極限の迷宮』の出口の扉を開けた所で力尽きて倒れてたお前をここに連れてきてから、丸一日経ってんだぞ。」
「皆無事なんッすね?良かった・・・。」
「ったく、合格よりもポケモンの無事の方が大事か?」
「何言ってるネ。サムもイヅチの事心配してたヨ。」
憎まれ口を叩くサムにシンシアがつっこみを入れ、サムは「それを言うなぁ!」などと叫んでいた。
「師匠は、どこにいるッすか?」
「師匠か?今、客が来ててよ。食堂で話をしてるぜ。行くか?」
サムに師匠の居場所を聞き、サムの言葉に頷いたイヅチは立ち上がろうとするが、上手くいかない。どうやら相当体がまいっているようだ。サムに肩を借りて食堂に行くと、サムの言った通り、師匠が客と話をしていた。イヅチに気付いたのか、師匠は声をかけてきた。
「イヅチ、こっちきな。」
言われたとおりにサムに肩を借りつつ師匠の近くまで行くと、師匠は客に少し待ってもらえるように頼んでから、イヅチに訊いた。
「足りないもの、分かったか?」
イヅチはそれに迷わず答えた。
「はい、俺に足りなかったのは、ポケモンを思う心ッす。」
「・・・なら、いい。修行、頑張りな。」
イヅチの答えに師匠はそれだけを返した。これは、許してもらえたのだろうか?そうイヅチが考えていると、客が話を再開した。
「君が彼女の言ってた新しい弟子かい?なかなか良い面構えしているじゃないか。私はエニシダ、あちこちの地方でバトルフロンティアというバトル施設を作り、多くのトレーナーに色んなバトルをしてもらっているんだよ。よろしく!」
「俺はイヅチッす。よろしくお願いします・・・。」
挨拶を返しながら、イヅチはエニシダの姿をよく見た。小太りの身体に水色のアロハシャツ、サングラスとかなりラフで目立つ格好だ。正直言って外見からは、海の家の店長にしか見えない。
「ところで話に戻るけど、シェイラ、フロンティアブレーンになってくれないか?」
「いやだね。」
「シェイラ?」
エニシダの口から出た名前にイヅチが聞き返すと、エニシダは不思議そうに師匠に聞いた。
「驚いた。この子には君の名前、教えてないのかい?」
「あんたとの話が終わったら教えようと思ってたさ。イヅチ、アタシの名前はシェイラ。ただし、あんま名前で呼ばれるのは好きじゃないから、師匠でいいからな。」
「はいッす。」
イヅチと師匠のやり取りが終わったのを確認すると、エニシダは再び師匠と交渉を開始した。
「欲しい設備があれば用意するし、君の弟子も一緒に来てもいい。だから、考えてくれないか?」
エニシダの要求に師匠は溜め息交じりに言った。
「四天王の連中やフロンティアブレーンが光だとすりゃ、アタシは影。決して表に出ちゃいけないし、出るつもりもない。便宜上、弟子とは言ってるが、弟子をとってるつもりもない。連中は、アタシのきまぐれと修行に付き合えると判断した奴らさ。」
「う〜ん、これは一筋縄ではいかないねぇ。よし、今日の所は出直そう。また来るから考えといてよ。」
「考えてはみるさ。」
もう少し粘るかと思われたエニシダは意外にあっさりと引きさがる事に決めたようだ。話を聞いていたサムが、「どうするんですか?」と聞くと、
「さぁな。」
と師匠は、いつもの調子で答えた。その様子にやっとイヅチは安心したが、同時に師匠の名前にどこか聞き覚えがある気がしたのであった。
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第32話「危険因子」
イヅチが試練の間を突破し、破門が免除されてから2週間が経った。ポケモンへの気配りの大切さを改めて知ったイヅチの修行は、以前よりも順調になっていた。
「う、う〜ん・・・」
いつも通りイヅチは目覚めた。昨日も遅くまで修行していたが、熟睡したせいか、疲れは残っていない。兄弟子達との模擬戦の中で、少しずつ自分に合った戦法や師匠が使っている改良技のコツを掴み始めている。この頃は、充実した日々を遅れている気がするのだ。顔を洗い、着替えると、いつも通り朝食をとっているであろう師匠や兄弟子達に挨拶して、朝食を食べるために食堂へと向かった。
「ええ!?師匠、いないんッすか?」
「うん、今日は特別な用事があるらしいよ。夕方には帰るってさ。」
食堂に着いたイヅチを待っていたのは、師匠が明朝に外出したというテンマの報告と、それ以外はいつも通りの兄弟子達の姿だった。
「改良技の確認をしてもらいたかったッす・・・。」
「帰ってきてからしてもらえばいいじゃん。」
イヅチの言葉に、テンマはさらりと返す。イヅチもそれは分かっているが、肩透かしを喰らったような思いはした。
一方、師匠はとある街のカフェにいた。飲んでいるのはアイスティー、どうにもコーヒーという飲み物が旨いとは思えないからだ。
(ったく・・・、アタシもガキかよ・・・。)
師匠は溜め息をつきながら、店の時計を見た。待ち合わせをしている相手が来る時間まであと僅かだ。その時—
「すみません。席、ご一緒してもよろしいですか?」
一人の青年が話しかけてきた。服装からして、エリートトレーナーだろうか・・・、いや、違う。
「・・・あんたか、いいよ。座りな。」
師匠は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で囁いた。すると、青年は軽く頷いて向かいの席に座った。
「・・・久しぶりだね。ちゃんと来てくれて安心してるよ。」
「一応、自分の首がかかってるからな。そりゃ来るさ、ハンサム。」
互いに他の客や店員に聞こえなくらいの声で会話を始めた。相手は青年の姿はしているが、それは変装、正体は国際警察のエージェント—コードネーム・ハンサムだ。
「すまないね。元ロケット団員である君の監視は、まだしばらく続きそうだ。」
「分かってるさ。それにあんたら国際警察がアタシを監視するための手段として送り込んだんだろ、スレイグを。」
「やはり、それもバレていたか・・・。敵わないな。そうでもしないと、上層部は君が自由に行動する事を認めなかったからね。それは理解してくれ。」
「ああ、それに関しては感謝している。普通なら刑務所行き、場合によっては極刑もありうるくらいの事をアタシはしてたんだからな。」
内容的に凄い話をしているのだが、傍から見れば仲良くデートしているようにすら見えてしまう。
「そんな風に言わないでくれ。上層部も何もそこまでは考えていないさ。」
「でも、恐れてんだろ?アタシがまた敵にならないか。」
「・・・ああ、正直、君を敵に回したくは無い。だが、ここからは私の推測だが、君はもう我々が気にしているような事になど興味が無いのだろう?」
「・・・無いね。もっと他にやりたい事が、いや、成し遂げないといけない事がある。それを邪魔されない限りは、何もしやしないさ。でも、邪魔すると言うなら・・・」
師匠の言葉にハンサムは苦笑しながら言った。
「作り笑顔で恐ろしい事を言うなぁ。安心しろ、今の所邪魔をする予定は無いから。」
「なら、いいさ。好きなだけ監視でも何でもしてくれ。それを批判する権利はアタシには無い。」
その後、二三言話すと、師匠は席を立った。
ハンサムと別れた後、師匠はオウリュウに乗って基地へと向かっていた。弟子の前では、話すに話せないが、今なら問題は無い。
「なぁ、オウリュウ。」
『何だ?』
「アタシみたいな危険因子が、こんなに自由にしてていいのかな。」
普段は虚勢を張って隠している思いが自然とこぼれだす。オウリュウは、ゆっくりと羽ばたきながら答えた。
『それを決めるのは俺じゃない。その答えを求めてる奴が誰かも、お前はもう分かってるんだろ?なら、それ以上俺が言う事は無い。』
(・・・馬鹿やろ。)
嘘でもいいから、『いい』と言って欲しかったのに・・・。そんな師匠の思いなど知らぬように空は澄み渡っていた。
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第33話「柏陽の旅人」
「ケッキング、からげんき!」
「ジャローダ、リーフブレード!」
ブライのケッキングと、燭陰のジャローダのリーフブレードが師匠が繰り出したポケモン達に襲いかかる。しかし、師匠は鋭く対応した。
「ジンゴロウは辻斬り、MET−Xはサイコキネシス!」
「ソルッ!」
「メタ〜ッ」
師匠のアブソル—ジンゴロウの辻斬りがジャローダのリーフブレードを易々と受け止め、メタグロスのMET−Xがサイコキネシスでケッキングの攻撃を逸らした。
いつも通り、基地で修行をしているイヅチ達は、今はブライと燭陰が師匠とバトルしているのを見学しているのだ。
ジャローダがいえきを使って、ケッキングの特性‐なまけを打ち消した上でとぐろを巻くと特性‐あまのじゃくを活かした戦法で、最初こそ師匠を押しているように見えたが、攻撃力をあげたはずのリーフブレードは受け止められ、ケッキングの攻撃も思うような成果をあげられなくなっていた。
「ケッキング、地震!」
「ジャローダ、守る!」
「ジンゴロウ、不意討ち。MET−X、ストーンエッジ‐機関砲。」
事態を好転させようと、ケッキングの地震で攻撃しようとした2人だったが、ジンゴロウの不意打ちでケッキングの体勢が崩され、更にMET−Xの小粒の連射型ストーンエッジをまともに喰らい、返り討ちにあってしまった。
「ジャローダ、リーフストームです!」
「ジャローッ!」
「ジンゴロウ、辻斬り‐大車輪。」
「ソルッ!」
既に3発目になり、更に威力を増したリーフストームを、ジンゴロウが体ごと縦回転しながら放った辻斬りが一刀両断する。しかし、2人にとってはそれも計算の内なのだろう、ケッキングの体勢を立て直すための攻撃なのだろう。両者が再び激しい戦いを始めようとした瞬間—
『師匠、お客さんが来てますよ。』
スレイグの館内放送が入った。師匠はバトルを中断し、壁にある通信機で話し始めた。
「ったく、誰だよ?今、いいとこなんだぞ。」
『・・・柏陽です。』
「・・・!分かった、今行く。悪いな、2人とも。いい所だが、次はまた今度にしてくれや。」
ブライはいささか不満げだったが、燭陰が了承したため、どうしようもなく頷いた。通信機を切ると、師匠はトレーニングルームを出ていった。
「柏陽って誰ッすか?」
「さぁね、師匠にとって大切なお客らしいけど。割と新しく聞いた名前だよ。」
テンマに客の事を聞いたイヅチだったが、テンマも詳しい事は知らないらしく、しょうがなくイヅチは自分のトレーニングに戻った。
「・・・そうか、キミたちは双子なんだね。ふぅん、なるほど・・・」
「来やがったか、この電波。」
「・・・その呼び方は止めてくれと言ったはずです。」
基地の裏山に向かった師匠は、2体のエレキブルに話しかけていた青年に話しかけた。青年は自分の呼ばれ方が気に食わなかったらしく、眉間にしわを寄せた。
「・・・そうだな、悪い。ところで、帰ったのか?」
「いえ・・・、まだです。ボク自身がまだ答えを見つけられていないし、自分の事が許せない。だから、彼と話をしに来たんです。」
師匠の問いに青年は首を横に振ると、自分の要件を早口に告げた。
「・・・初めて会った時から、変わってねーな。ま、それはアタシもか。いいぜ、今はアタシの部屋にいる。好きなだけ話しな。だけど、それで答えが出るとは思えないけどな。」
「それでもいい。ここのポケモン達の長たる彼と話がしたいんです。それだけだ。」
それだけ言うと、青年は自分のポケモンらしい、白く輝くポケモンにその場で待つように言い、基地の中に入っていった。
『・・・来たか。分かってはいたがな。』
「うん、また君と話がしたくなって。」
青年は師匠の部屋に入って、中にいたオウリュウに話しかけた。この部屋に入るのは2度目だが、不思議な空間だと思う。様々な資料やポケモンバトルのビデオが本棚に並び、化石の様な物が置いてあるのか転がしてあるのか分からないが所々にある。極めつけは、部屋の一番目立つ所に飾られている『忘れるな、我は生きているのではなく、生かされている』と書かれた額に入った紙だ。
『何度も言うが、お前は真実に敗北した時、自分で気づいているはずだ。今さら、俺が助言してやれることなど無い。』
「それでも、少しでも知りたい。君たちの思いを、もっと多くのポケモン達とトモダチになるために。」
『・・・トモダチか。奴の目的とは大違いだな。奴は、万人に蔑まれようと、危険人物だとマークされようと、やり遂げる覚悟を持ってある計画を進めている。お前のように純粋では無いな、俺も充分純粋ではないが。』
「ボクは、あの時から自分が分からなくなった。『仲間達と探していけ』なんて言ってくれた人もいたけど、納得が出来ない。」
『・・・俺は嬉しいもんだと思うがな。何に変えても、自分達のためを思って行動できる奴がいてくれるってーのは。お前のやりたかった事、願ってきた事を全否定出来る奴なんていないと思うがな。』
オウリュウの言葉に青年は考え込んだ。やはり、彼は自分が会ってきたどのポケモンとも違うように感じるのだ。
(オウリュウの奴、恥ずい事言ってんじゃねぇよ。)
師匠は、自分の部屋の前で奇妙な会話を聞いていた。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第34話「ロイヤルカップ」
「少しよろしいですかな?」
「あなたは・・・?」
オウリュウと会話していた青年のもとにフマ爺がやってきた。
「姫様に許可をいただきましてのぅ。・・・やはり覚えてはおりませぬか、N様。」
「あなたは、もしかして・・・」
Nと呼ばれた青年は驚いた様子でフマ爺の事を見る。フマ爺は懐かしそうな顔で言った。
「・・・ええ。以前、プラズマ団で研究員をしておりました。今はここで、技術員として働いております。」
「そうか・・・。」
「帰らないのですか、イッシュ地方には。」
「まだ帰れない。帰っちゃいけない気がするんだ。」
「・・・そうですか。なら、しつこくは言いませぬ。姫様のお許しもいただいておりますので、本日は泊まっていってくださらぬか?」
「いや・・・、でも。」
「この老いぼれの頼みです、お願いいたしますじゃ。」
「・・・分かった。」
フマ爺の頼み方が良かったのか、Nはフマ爺の申し出を受ける事にした。
「あの・・・師匠。」
「なんだ、イヅチ?」
「その人は、誰ッすか?」
その夜、食事中にイヅチは見慣れない青年が食卓にいたので、師匠に尋ねた。青年は、自分の事を聞かれていると分かったようで、少し気まずそうにしたが、
「ああ、アタシの知り合いでな。ナックっていうんだ。今日は泊まってくってよ。」
(ナック?)
(いいから、話し合わせとけ。)
師匠の機転に気付いたNは、慣れない愛想笑いを浮かべた。イヅチは納得したようで、
「初めまして、イヅチッす。」
と、明るく挨拶した。
すると、師匠が立ちあがって一枚の紙を取り出して話しだした。
「皆、食いながらでも聞きな。シロナの奴から面白そうな話が来た。ロイヤルカップっつーポケモンバトルの大会だ。ポケモンリーグのチャンピオンクラスの選手も参加するらしい。普段の修行の成果を見せつけにいくぜ。異論は無いな?」
皆が修行の成果を見せたかったらしく、異論を挟む者はいなかった。
「ししょーも出るの?」
「出てもいいけど、知らねーぞ?」
センケイのやや失礼な質問に、師匠はニヤニヤしながら答えた。
「なら、腕が鳴るというものです。」
「ですね。」
ブライの言葉に燭陰も頷いた。
(城での食事とは大違いだな・・・。)
そう思ったNだったが、嫌な感じはしなかった。ただ、オウリュウの言葉だけは頭から離れなかった。
ロイヤルカップまでは日が無いようで、出発は明日となり、その日は早く寝る事になった。
(ロイヤルカップか・・・、楽しみッす!)
ベッドに入ったイヅチはこれから始まるバトルにわくわくしていた。これから何が起こるか知りもせずに。
「ナックさん、行っちゃったんッすか?」
「ああ、朝早くにな。とりあえず、出発すんぞ。斑鳩、頼むわ。」
「任しときな、ばっちり飛んでやるぜ!」
師匠はイヅチの質問に短く答えると、テンペスト号に向かって歩き出した。師匠にブライや燭陰達も続く。イヅチも遅れまいと、後についていこうとした。
「・・・君は」
以前夢で見た少女がそこにいた。しかし、師匠もブライ達も反応していない。自分しか見えていないのだろうか。一瞬、師匠の方を見て、少女の方を向くと、既に少女の姿は無かった。
(幻・・・だったんッすか?)
「イヅチ、何してんだ。置いてくぞ!」
師匠に呼ばれて、慌ててテンペスト号へと向かうイヅチだったが、一瞬見た少女の哀しそうな顔が頭から離れなかった。
そして、二日後。無事に開催地のセキエイ高原に到着した一行は、ロイヤルカップの予選を難なく突破した。
「さすがね、シェイラ。あなたも弟子の皆も凄いじゃない。」
「あんまり褒めるな。調子に乗るから。」
予選が終わった後、同じく予選を余裕で突破したシロナと合流した一行は、レストランで食事していた。
「皆とバトルするのが楽しみだわ。そうでしょ、シェイラ?」
「どーかな。上達してなかったら、ぶっ飛ばすけどな。」
シロナの言葉に師匠は冗談で返し、その場に笑いが生まれた。これから始まるであろう激しいバトルだが、そこに無駄な緊張は無かった。
そして、本戦の朝が明けた。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第35話「破滅への序曲」
「・・・本当にいいんだな。」
「ああ、もう決めたんだ。お前なら、なんとか隠れて生きていけるだろ?」
「結構気に入ってたんだぜ、テンペスト号。」
「悪いな。」
本戦初日の早朝、テンペスト号をとめている広場で、師匠がフマ爺と班鳩と話をしていた。
「姫様・・・、考え直してはもらえぬか?」
「・・・ありがとな。でも、そういう訳にもいかねぇんだ。」
「あんたとの生活、楽しかったぜ。」
「こっちもさ。短い間だったが、楽しかった。本当にありがとう。」
「「!!」」
「じゃあな、縁がありゃ、来世で会おうぜ。」
何かを堪えるように明るく手を振りながら師匠はその場を立ち去った。
「姫様・・・。」
「フマ爺、俺も多分同じ気持ちさ。でも、俺達じゃ止められねェよ。止めちゃなんねぇ。」
「・・・哀しいのう。ところで、お前さんはこれからどうするのじゃ?」
「切り替えが早いな、あんた。俺はシンオウ地方に帰るわ。一人でなら何とかやってけるしな。フマ爺は?」
「フラフラと好きに余生を過ごすわい。」
「・・・じゃあ、行くか。」
「そうじゃの。」
そして、斑鳩とフマ爺は広場から立ち去った。
「あ、グリーンさん!」
「なんだ、やっぱりオメーらも来てたか。」
朝食をとったイヅチ達は、本戦会場となる臨時スタジアムに向かい、そこでグリーンと再会した。
「グリーンさんも予選を突破したんッすね!」
「当たり前だろ。このグリーン様だぜ?」
「ジムリーダーが暇なものだな。」
鼻高々なグリーンにブライが皮肉を浴びせる。
「うっせーな!ところで、オメーらの師匠は?」
「そういや見てないな。」
「朝早くに散歩に行きましたよ。本戦には間に合うようにすると言ってましたから、心配はないでしょう。」
燭陰が師匠の近況について皆に伝えた。
「・・・それじゃあ、一足先に行ってようぜ。師匠もそのうち来るだろ。」
「そうだね。」
サムの提案に賛成し、一行は選手の集合場所へと向かった。
「レディースアンドジェントルマン!さぁ、皆さんお待ちかね!ロイヤルカップ本戦の始まりだァーッ!!」
師匠と合流しないまま、本戦の開会宣言が始まった。
「師匠、遅ぇよ!このままじゃ不戦敗だぜ!?」
「師匠の試合まで、時間があるネ。大丈夫ヨ。」
そわそわしている輝脚にシンシアがつっこみをいれた。
(師匠・・・、どうしたんッすか?)
「これから皆さんは、最高のポケモントレーナーによる最高のバトルを見る事でしょう!」
「「「ワァァァァァッ!!!」」」
「フン。最高のバトル?おかしな事を言うじゃないか。」
「!あなたは、シェイラ選手・・・?」
突如、司会者の背後に師匠が現れた。
「困りますよ、シェイラ選手!早く集合場所に行ってください!・・・って、立体映像!?」
慌てた司会者が師匠を壇上から下ろそうとするが、それは実体の無い立体映像だった。
「さぁ、おっぱじめようぜ!」
立体映像の師匠が指を鳴らすと、地面が激しく揺れ始め、凄まじい掘削音と共に巨大なポケモンが姿を見せた。
「ハガネール!?」
「でも、でかすぎる!」
地中から現れたのは、通常の何倍もある巨大なハガネールだった。
「ガネェェェル!」
ハガネールは突然、ストーンエッジを乱射し始めた。巨大な岩の刃が飛び、臨時スタジアムはたちまち混乱に包まれた。
「み、みなさん、落ち着いて!早く避難を!」
司会者が避難を促すが、混乱する人々の避難はなかなか進まない。
「燭陰、あのハガネールを止めるぞ!サム達は避難を手伝え!」
「それが一番ですね。行きますよ!」
「俺様も行くぜ!」
ストーンエッジをかわしながら、ブライがハガネールに向かって走り出す。燭陰とグリーンもそれに賛同し、ブライに続く。
「師匠・・・、どういう事ッすか・・・?」
「イヅチ、何してんだ!?行くぞ!」
あまりの出来事にイヅチが立ちすくんでいると、サムの声が聞こえた。師匠が何を考えているかは分からないが、多くの人が危険にさらされているのだ。ここは避難を手伝うのが良策だろう。イヅチは、とにかく避難の手伝いに全力を尽くすことにした。
「ウィンディ、フレアドライブ!」
「アバゴーラ、アクアジェット!」
ブライとグリーンのウィンディ、燭陰のアバゴーラが巨大ハガネールのストーンエッジの間隙を縫って肉薄する。が、次の瞬間—
太い熱線が上空からウィンディとアバゴーラに襲いかかった。
「かわせッ!」
「回避です!」
間一髪気付いた三人は回避を指示し、熱線をやり過ごした。
「これはっ!?」
「考えたくない事態ですね・・・。」
熱線が飛んできた上空を見た三人は、唸るように呟いた。
上空には、サザンドラとボーマンダ、そして、テンペスト号が滞空していた。すると、テンペスト号のハッチが開き、師匠が姿を現した。そして—怪しげな笑みを浮かべて指示を出した。
「バイパー、大爆発。」
「「「!!!?」」」
絶句するイヅチ達をよそに、バイパーと呼ばれた巨大ハガネールは徐々にエネルギーを蓄積し始めた。
「伏せろォッ!!!」
グリーンの叫び声と共にバイパーの大爆発が発動した。
—続く—
-
PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第36話「侵攻開始」
「・・・うっ、ここは?」
イヅチが目を覚ましたのは、ベッドの上だった。体中が痛み、耳鳴りはするが生きているようだ。気を失う前に最後に見たのは、凄まじい爆風が迫って来るところだったが、確かあの時・・・
「!師匠っ、どういう事ッすか!?」
あの場で起こった出来事を思い出し、イヅチは起き上がったが、立ちくらみがしてよろけてしまう。
「大丈夫か?まだ休んでろ。」
「サムさん・・・」
よろめいたイヅチをサムが支えてくれた。よく見ると、彼も普段見に付けている着ぐるみが壊れたようで、怪我こそしていなかったが、普通の服を着ていた。
「落ち着けよ。あった事を話すから。」
「・・・はいッす・・。」
イヅチが落ち着くのを確認してから、サムは話し始めた。
「師匠のハガネール—バイパーの大爆発でスタジアムは崩壊。幸い俺達以外に怪我人はいなかったがな。師匠はバイパーを回収して、どこかに行っちまった。爆発の後、四天王が駆けつけてきたが、軽くあしらわれて逃げられたらしい。んでもって、一番近くで安全そうなトキワシティのポケモンセンターまで撤退した、つー事だ。」
どうやらイヅチが気絶している間に事態は進行していたようだ。ブライ達はスタジアム跡で巻き込まれた者がいないか確認しているらしい。
『臨時ニュースをお送りいたします。ただいま入った情報によると、カントー、ホウエン、シンオウ、イッシュの4つの地方の主要都市が謎の構造体とポケモンの集団に攻撃を受けている模様です!繰り返します・・・』
「「!!」」
ポケモンセンター内のモニターに映っていたのは、球体と四角錘をつなぎ合わせたような子どもほどの大きさの人工物と、街へと襲いかかるポケモンの集団だった。
「サム!」
「帰ったか!これはもしかして・・・」
そこへブライ達が帰ってきたようで、モニターを見て表情を険しくしてこちらへ近づいてきた。
「ああ、考えたくは無いが、おそらく師匠だ。」
「状況からして、可能性は高いか・・・。でも・・・」
サムはブライ達と深刻な話をし始めたが、イヅチにはまだあの時の事が信じられなかった。師匠はこんな事・・・、思わず心の中が声に出ていた。
「師匠は、こんな事しないッす!」
「イヅチ君・・・」
その様子を見た燭陰は気遣わしげな顔をするが、ブライは構わず続けた。
「どう考えても、師匠が関与している可能性は高い。なら、無視できるはずもないだろう。」
「だから、師匠はそんな事考える人じゃないッす!」
「イヅチ、少し落ち着け。な?」
サムが間に入ろうとするが、イヅチの語気は荒くなるばかりだ。
「きっと他に真犯人がいるッす!それを・・・」
イヅチが言い終わる前に、輝脚がイヅチに当て身をくらわせた。意識を失い、崩れ落ちるイヅチを輝脚はそのまま受け止め、静かに寝かせた。
「グダグダ考えたりしてる場合じゃねぇ。師匠が犯人で無かろうと、何らかの事情を知ってるに決まってる!ホムンクルスの情報網は並みじゃねぇからな。」
「何も気絶させる事は無いだろ。」
「話を聞きそうだったか?」
輝脚の行動に物言いをしようとしたサムだったが、イヅチの様子を思い出し、口をつぐんだ。その時—
—ピルルル、ピルルルル
ホムンクルスの子機からメール着信のメロディーが流れた。子機を取り出し、メールをチェックしたブライ達は目を見開いた。
「・・・行くぞ。」
「それしかないな。」
「話をつけに行きましょう。」
口々に決意を言うと、ブライ達はポケモンセンターから飛び出していった。
誰かに呼ばれた気がして、イヅチは目を覚ました。しかし、そこはポケモンセンターでは無く、いつかの夢で見た靄のかかった空間だった。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「!」
呼び声に気付いて振り向くと、夢の中と基地を出るときに見た少女が立っていた。相変わらず血が滲んだ包帯だらけの痛々しい姿だが、笑顔を浮かべている。何かいい事があったのだろうか、そんな場合ではないと思いつつ、イヅチは尋ねた。
「何かいい事があったッすか?」
少女は満面に笑顔を浮かべて頷いた。
「うん、あったの。お兄ちゃん達がいい事、くれたの。シェイラ、生きてて良かったって思えたの、嬉しかったの!だから、ありがとうと、さよならを言いに来たの。」
さよなら、何の事だ?突然に、いや、それよりも・・・
「もしかして、君は、あなたは・・・」
最後の言葉は声にならず、少女の姿はどんどん霞んでいって、消えた。
「師匠!」
「!びっくりしたわ。大丈夫?怪我は無い?」
最後の言葉と共に飛び起きたイヅチに、心配して見に来たジョーイが驚いて軽く飛びあがった。
「あ・・・、ああ、ごめんなさい。大丈夫ッす!」
「なら良かったわ。少しでも体を休めてね。無理は禁物よ。」
「ジョーイさん、俺の先輩達、知らないッすか?」
「先輩?ちょっと前に何人かのトレーナーさんが飛び出して行ったけど。それより、君は気絶していたのよ?ちゃんと休んでなさい!」
ジョーイさんの言葉に飛び出していこうとするイヅチだったが、ジョーイさんの剣幕に押され、ひきさがる事にした。
ポケモンセンター内のモニターでは、襲いかかるポケモン達と、それを食い止めようと戦うトレーナー達の様子が中継されていた。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第37話「クチバ防衛戦1」
「ウオオーイ!ブーバーン、大文字ィ!」
「ブゥ〜、バーンッ!」
ブーバーンの両腕から撃ち出された爆炎の塊が、こちらに突撃してきた大型ポケモンを正確に捉え吹き飛ばす。しかし、一体が倒れても、次から次へと大型ポケモンは襲いかかってくる。
「ゴド〜ッ!」
大型ポケモン—ボスゴドラが一斉にストーンエッジを放ってきた。
「ぬおッ!!」
結果的に大技の後の隙を突かれた形となったブーバーンとトレーナーだったが、ストーンエッジは彼らの目の前で見えない力によって止められた。
「・・・危ない所だったわね、カツラ。私が止めてなかったら、終わりだったわよ。」
エーフィーのサイコキネシスでストーンエッジを止めたトレーナー—ナツメは、ブーバーンのトレーナー—カツラに注意を促した。
「いくネ、ジバコイル、レアコイル!ボスゴドラ共を釣り上げろォ!」
「ジババババ!」
「レア〜!」
男の指示に従い、ジバコイルとレアコイルが発生させる磁力が、鋼タイプのボスゴドラ達を宙に浮き上がらせ、ひとまとめにする。
「今ネ、カスミ!」
「任せて!スターミー、ハイドロポンプ!」
「ミーッ!」
カスミの指示に従ったスターミーから撃ちだされたハイドロポンプが、岩タイプも併せ持つボスゴドラ達に直撃した。
「よし!叩き落とすネ!」
男の声と共に磁力から解放されたボスゴドラ達は、そのまま落下し戦闘不能になった。
「カツラ、炎タイプしか持ってないユーは、岩タイプが苦手ネ!ここは、このマチスに任せて休んでおきなサーイ!」
ジバコイルとレアコイルのトレーナー—マチスは不敵に言い放った。
「冗談じゃない!わしは今、猛烈に燃えとるんだ!岩如きに止められはせんわ!」
突如としてクチバシティ沖から出現した数隻の潜水艦—そこから放出された構造物は、次々とモンスターボールからポケモンを繰り出し、クチバシティのポケモンセンターに向けて侵攻を開始したのであった。それらを食いとめるべく、有志のトレーナーやジムリーダー達が応戦しているのだ。しかし、構造物は時折光を放って、戦闘不能になったポケモン達を回復させてしまう。数の差もあってか、徐々に彼らは追い込まれていた。
「悪い、待たせたな!」
セキエイ高原から、報告を受けたグリーンがピジョットから降り立った。
「やっと来たか、グリーン!」
「タケシか、状況は?」
「まだ怪我人は少ないが、押され始めてる。ポケモン達を回復させてる構造物を破壊できれば・・・」
「分かった。援護してくれ、やってみる。」
「その話、わたくしもお手伝いしますわ。」
「エリカ!・・・分かった、頼む。」
グリーンは素早く複数ある構造物から標的を絞ると、合図を送った。
「あれだ!行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
グリーンの声に、タケシとエリカが応じた。
「ピジョット、電光石火!」
「イワーク、嫌な音!」
「ラフレシア、痺れ粉!」
ボスゴドラの一群に痺れ粉と嫌な音が襲いかかり、その動きを封じ込める。体が痺れながらもピジョットに向かって攻撃するボスゴドラもいたが、やみくもに放つ攻撃など当たりはしない。攻撃をかいくぐり、ピジョットは渾身の電光石火を構造物に見舞った。
凄まじい衝撃に耐えかね、構造物は破片を散らしながら爆散した。
「よっしゃ!」
「やった!」
「成功ですわ!」
成功を喜ぶグリーン達だが、その瞬間—エリカの足元が盛り上がり、何かが飛び出した。
「これは?」
その場から跳び退いたエリカが見たのは、不思議な模様が入った巨大な岩だった。
『・・・イヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・。』
岩の中から不気味な笑い声が聞こえてきて、エリカの背筋に冷たいものが走った。何か、危ない・・・!
『イヒヒヒ、ミィカァァッ!』
笑い声と共に、岩の割れ目から大きな影の様なポケモンが現れた。
「・・・ミカルゲ!?」
太古の昔にみかげいしに封印されたというポケモン—ミカルゲだ。知識としては知っていたが、希少なポケモンのため、目にするのは初めてだ。更に、ミカルゲが現れた際に生じた地面の亀裂から、ヤミラミが次々と這い出してきた。
「しまった・・・。」
エリカがいる場所は、ちょうどトレーナー達が集まっている場所に近い。ここから攻撃されたらひとたまりもない。しかし、ミカルゲ達は対応を考える隙すら与ええくれなかった。
『ミカァァッ!』
「「「ヤミィ〜」」」
ミカルゲの号令と共に三匹のヤミラミがシャドークロ—で襲いかかってきた。よけられない!思わず目をつぶるエリカ、しかし次の瞬間—
「バクフ—ン、火炎放射!」
「バクゥッ!」
「「「ヤミミィ〜」」」
間に割り込んだバクフ—ンが火炎放射でヤミラミ達を吹き飛ばしたのだ。
「エリカさん、大丈夫ですか!?」
「ヒビキくん?どうして?」
以前自分に挑戦し、勝利したジョウト地方の少年—ヒビキだ。しかし、何故彼がここに?ヒビキは笑顔を見せて言った。
「俺だけじゃないですよ。皆で助けに来ました!」
「皆で?」
ヒビキの言葉に思わず周りを見ると、
「バタフリー、眠り粉!」
「ピジョット、フェザーダンス!」
「ゲンガー、怪しい光!」
ジョウト地方のジムリーダー達が襲いかかるポケモン達に立ち向かっていた。
「コトネもいますよ!」
「ルリ〜」
「あはは〜」
この状況で元気よく挨拶するコトネとマリルにヒビキは思わず苦笑するが、何かに気付いて叫んだ。
「コトネ、後ろッ!」
「え?」
運よく足止めされなかったボスゴドラがコトネの背後から襲いかかってきたのだ。
「わわわ!」
「ルリ〜!」
突然の襲撃に慌てるコトネとマリル、しかし、次の瞬間—
「オーダイル、ハイドロポンプ!」
「ダイル!」
オーダイルのハイドロポンプがボスゴドラを吹き飛ばした。
「ソウル!来てくれたのか?」
「ありがとう、ソウル!」
オーダイルを連れた赤髪の少年にヒビキとコトネは駆け寄るが、少年はそっぽを向きながら言った。
「勘違いするなよ。お前がやられると、俺が負けっぱなしになるから来たんだ。お前を倒すのは俺だからな!」
「・・・とか何とか言っちゃって、本当は心配してたんでしょ?」
「うるさい!」
コトネの言葉に敏感に反応し、ソウルは怒鳴った。
「と、とにかく、あのミカルゲから倒そう!」
「俺に指図するな!」
コトネにはジムリーダー達のサポートを頼み、ヒビキとソウルはミカルゲを倒す事にした。
「ふぅん、ソウルか。あんたがサカキの息子ねぇ・・・。」
突然、女性の声が響き渡った。
—続く—