DQM
~天才科学者の血を継ぐ者~
人類最大にして狂気の頭脳を持つ科学者。
ー『Dr.デロト』。
その科学者の名前である。
肌も凍る様な寒い雪国にその身を置き、雪が積もる草原の地中に骨を収めた彼の生涯発明した機械は、猟奇的かつ冷徹な思考の殺人マシーンばかりだった。
生命ある者を次から次へと殺戮するだけのそのマシーンは、デロトによって『キラーマシン』という名前がつけられた。
キラーマシン開発後も、デロトはキラーマシンの改良を進め、『キラーマシン2』、『キラーマシン3』と、キラーマシンは進化をし続け、世界各地の冒険者達を苦しめ続けた。
しかし、最恐の科学者といえど、生きていればいずれ老いが訪れる。
キラーマシンの成長と共に、死期は刻一刻とデロトの中で刻んでいた。
自身の死の直前、彼はメモを残した。
シワだらけの震えた手で彼は羽ペンを持ち、羊皮紙に最期の言葉と共に、未来の遺伝子に向けて文を綴った。
『私の遺伝子を継ぐ者よ。
私の発明は、私の力では真価を発揮できなかった。
もし君が、私の発明に、殺戮以外の何かを見出だしたのなら、それを追い求めてくれ。
狂気は、希望と共に。』
そのメッセージは、時代を越えて、雪国より遠い東邦の国……。
……日本に、伝えられた。
蛇雅理故
No.12872926
2014年12月08日 08:31:09投稿
引用
日本の経済や政治の中心となる、いわば大都会。
そんな東京の、ビルが立ち並ぶ街からは離れた場所にある、静かな住宅街。
その内の、赤い屋根の家の2階には、木の葉が舞う秋の寒さに耐えながらも、一心に机に向かい、何かの設計図を見ながら研究らしいものに励む、赤髪の小学生がいた。
「……」
少年の口は閉じたまま。
黙々と作業を進める。
「……くっ」
ふと少年は、何かが頭の中に引っ掛かったのか、髪の毛を掻きむしる。
うんざりして頬杖をついたその時、
ピンポーン!
チャイムが鳴り響いた。
呼び出しのチャイム。
どこかの誰かが、この家の人間に用があるということなのだが、少年は無視して、再び机に向かった。
「ちょっと海覇(かいは)?女の子のお友達が来てるわよ?ほっといていいの?」
『海覇』
少年はそう呼ばれた。
海覇は、母に、居留守を使おうとしたことがバレた事に少しモヤついたが、口答えせずにちゃんと応対することにした。
ガチャッ
「もうっ!無視するなんて酷いよ海覇君!」
「ごめんね。優衣(ゆい)ちゃん」
優衣ちゃんと呼ばれたその少女は、マフラーとコートに身を包んだ黒髪の、海覇の小学校の同級生の女の子だった。
「ピキー!」
ふと、青くて柔らかい不思議な動物が、優衣の肩からひょっこりと顔を出す。
「スラすけも。ゴメンね」
スラすけと呼ばれたその動物は、『スライム』という名前の魔物だ。
魔物とは、この世界の至るところに住んでいる不思議な動物。
太古の時代においては、魔物は『人間を襲い殺す非常に凶悪な生命体』とされていたが、日本とは遠い王国『グランバニア』の王の魔物ならしにより、殆どの魔物は人間に心を開く様になった。
「海覇くん、相変わらず研究詰めで疲れてるでしょ?」
「……うん。まあ」
パッとしない返事をするが、目の下のクマは徹夜の証拠である。
それを見抜いた優衣は、海覇の身を案じ、手に提げてたバッグからお菓子を取り出す。
「海覇くんが大好きなシベリアを持ってきたよ。いっしょに食べよ?」
今時シベリアは非常に珍しい。
シベリアとは、羊羮をカステラで挟んだだけの簡易的なお菓子だが、時代と共にそれは忘れられ、今では取り扱う店さえも全然見かけない。
ところが、優衣の家はお菓子屋さんで、海覇がシベリア好きなのを知ってからは、シベリアを店のメニューにしているのだ。子どもと高齢者に高い人気を誇っている。
「ありがとう優衣ちゃん。調度、休憩しようと思っていた頃なんだ」
本当はそんな気更々無かったのだが、優衣の心使いにほっこりして、休みたい気持ちになった海覇だった。
蛇雅理故
No.12873694
2014年12月08日 14:24:00投稿
引用
「シベリアうまぁい!」
海覇のほっぺたは、まさに落ちそうだった。
カステラのふんわり食感と、羊羮の素朴な甘味のコンビネーションは素晴らしい。
しかし、海覇曰く、優衣のお菓子屋さんのシベリアは特別、他のお菓子屋さんのシベリアより美味しいらしい。
何か、他の店とは違う原料を混ぜているのか。それとも、愛的な何かなのか。
「海覇君、いつも美味しそうにシベリアを食べてくれるから、私とっても嬉しい♪」
「ピキー!」
外の風は過ぎ去るばかりだが、この部屋には、彼らだけの特別な時間が確かに流れていた。
海覇の机に散乱している難しい設計図も、今この時だけは、海覇の思考に干渉しない。
幾何パーツが散らばってようが、今だけは人の手に触れられない。
小さな研究者は、一時の休息に身を任せた。
しばらくして、シベリアを食べ終わった二人と一匹。
海覇はベッドに寝転がり、優衣とスラすけは海覇から借りた人気漫画『ヴァンピース』を読んでいた。
そう過ごしていると、不意にドアのノックの音が部屋に響いた。
ガチャッ
海覇の母が入室。
その手には1000円札二枚が持たれている。
「たまには二人……と、スラすけちゃんと外でデートでもどう?お金あげるから」
そう言い微笑んだ母の手から2000円が差し出される。
「デートだなんて、そんな」
優衣は頬を赤らめる。
今日は寒い日の筈だが、優衣はとても暑そうだった。
海覇は研究ばかりでデートなどにあまり興味は無かったが、優衣やスラすけと出かけられると思うと、海覇の心は静かに躍った。
「ありがとう母さん。行こうか、優衣ちゃん、スラすけ」
「うん!海覇君のママさん、ありがとうございます!」
「ピキピキッ」
海覇は、クローゼットからマフラーと手袋をそれぞれ2つずつ取り出す。
一つは自分用に。
手袋は優衣に。
マフラーをスラすけに。
「暖かぁい!ありがとう海覇君!」
優衣は手袋をはめ、自分の胸に手を当てて、温もりを感じている。
「ピクッ」
スラすけはマフラーを突起の部分からソフトクリームの様に巻き付けた。
「ふふ、とっても似合ってるよスラすけ」
「ピキー!」
一通り身支度を済ませ、2000円を海覇の財布に入れて、二人と一匹は階段を下りる。
「行ってきます!」
そう言って、一行は玄関から外へ飛び出した。
玄関前、母は出かける彼らを見送りながら、ふと思う。
(我が一族の先祖『Dr.デロト』様。我が一族の子孫『海覇』は、元気に生きています。)
秋風が吹く息も、人が持つ想いは冷やせない。
蛇雅理故
No.12892551
2014年12月12日 15:57:56投稿
引用
海覇達は、それを身をもって体現しているといえよう。
一行が向かったのは、近所で開かれているある大会の会場だ。
『モンスターズ・バトルロード』
それが、大会の名前だ。
自分が所持し育てたモンスターを4体、チームとして率いて、対戦相手のモンスターと闘わせるというスポーツだ。
モンスターを従わせる人の事を『マスター』といい、自分のモンスターに指示をして、チームを勝利に導く。
マスターは、チームを勝たせるために、頭を回転させる。
そして、モンスターはマスターに従い、相手と命を削り合う。
こうしたスポーツ精神が評価され、『モンスターズ・バトルロード』は全世界に浸透し、ついにはオリンピック種目にも選ばれた。
そして、海覇や優衣も、『モンスターズ・バトルロード』の大ファンである。
特に海覇は、今のところは『見る側』だが、いつかは自分もモンスターを持って闘わせたいと思っている。
そのために毎日『ある研究』に明け暮れているのだと、海覇は優衣に言ったことがある。
優衣としては、あまり海覇に無理をしてほしくないが、優衣自身、海覇と海覇の率いるチームが会場で活躍する所も見たいので、優衣は海覇の研究を応援している。
暫く歩いて、ついに会場にたどり着いた一行。
チケット売り場にて、子ども300円のチケット2枚とモンスター100円のチケットを購入し、会場へ入場する。
会場は、野球の会場の様に、中央に試合会場があって、その周りに座席が円を描いて設置されているという作りになっている。
試合開始まであと5分、二人は飲み物を買って席に座り、ゴングが鳴るのを待つ。
「今日って確か……」
「ああ、今日は『アイツ』の試合が見られる」
ワァァァァ!!
観客の歓声が、会場内に響き渡る。
ついに、『モンスターズ・バトルロード』が幕を上げたのだ。
「レディース!エェェェンドジェントルメェン!」
司会の役を担う金髪のタキシード男が切り出す。
「『モンスターズ・バトルロード!開幕ですッ!』」
ワァァァァ!
会場は凄まじい盛り上がりを見せた。
「始まったね海覇君!」
「うん!」
「ピキーッ!」
寒さの概念も、この会場においては無力であった。
蛇雅理故
No.12939805
2014年12月17日 21:46:05投稿
引用
「まずはこの方に来ていただきましょうッ!」
司会は、声量を下げることなく言葉を続ける。
「モンスター・バトルロードの生みの親ッ!ミスター『モリー』ィィ!」
ワァァァァ!!
『モリー』の名が叫ばれた瞬間、会場が更に湧いた。
「ヒューヒューッ!」
海覇が、観客の歓声に口笛を混ぜる。
「ひゅーひゅー!」
優衣も真似る。
バンッ!
プシューーーッ!!
広間に突然、煙が放出され、霧が作られる。
そして、その霧の中に、人影がうっすら浮かび上がるのを海覇達は感じた。
やがて霧が消えると、男が姿を現す。
全ての観客が待ち望んだあの男。
「待たせたな!」
ワァァァァ!!
そう、彼こそが『モリー』その男だ。
素敵なおヒゲを携え、ピエロのような服を着こなすハイセンスなナイスガイ。
「モリー!」
海覇が歓喜の声をあげる。
「今日は、出場するマスター達の自慢のチームが楽しみだな」
モリーはそう言うと、モンスター達が戦うフィールドから出て、その前に腕を組んで仁王立ちした。
そして司会が切り出す。
「それではさっそく始めていきましょうッ!」
「まずは第一回戦ッ!」
「『竜己(りゅうき)』選手 VS 『裕太(ゆうた)』選手ーーッ!!」
ワァァァァ!!
司会が言うと、両側のドアからそれぞれ選手が入場してきた。
右側からは、『竜己』と呼ばれた選手が入場。
青い髪を後ろに逆立たせ、竜のヒレの様な髪飾りを耳の上の髪の毛につけている。
キリッと引き締まった顔で、紅い瞳には闘志が隠されている。
そして、竜己は……。
「竜己ー!頑張れよー!」
海覇が竜己の名を呼び、激励の言葉を投げ掛ける。
「おう!」
竜己がそれに応え、右手を握り、グッと、天に右腕をあげた。
実は、海覇と竜己は幼馴染みなのだ。
住んでいる家が近く、幼稚園に入る前からの仲の良い親友同士。
海覇達は現在小5だが、竜己が小2の時にマスターにデビューしたので、海覇は竜己と直接関わる事が少なくなった。
しかし今でも、パソコンのテレビ電話機能を使って、間接的に交流している。
左側のドアからは、『裕太』と呼ばれた選手が入場。
少し小柄で弱々しいが、優しい顔立ちの男の子。
両選手がフィールドに立つと、また両側のドアから入場者が。
今度は人ではない。
そう、マスターの率いるモンスターだ。
竜己の出た左側のドアからは……。
蛇雅理故
No.14365082
2015年04月09日 17:55:54投稿
引用
会場に轟音が響き渡る。
それはまさしく「竜」の猛々しい咆哮であった。
ついに、竜己のモンスターがその姿を現すのだ。
まず1体目。
竜の翼と人の体を持った、いわゆる竜騎士が登場。
その名も……!
「『リザードマン』の『ヒジカタ』!」
その声は司会から発せられたモノだ。
「ヒジカタ キターー(°∀°)ーー!」
海覇は、『ヒジカタ』が現れたその瞬間、歓喜の叫び声をあげた!
そしてそれと共に歓声が狂ったように響く。また、響く。
リザードマンというのは種族名。
ヒジカタというのは、竜己が付けた名だ。
「今日も俺の太刀が、会場を血に染めるぜ」
ヒジカタはそう言いながら、その手に持つ太刀を観客に見せつける。
通常、リザードマンという種族は、西洋の剣を好んで装備するのだが、ヒジカタは、日本で生まれ育ち、日本の伝統的な剣である『太刀』が己の魂だと信じている。
故にヒジカタは、リザードマンとしてはかなり異色の『太刀を装備するリザードマン』なのだ。
そして、その太刀の名は『錦の太刀 国ノ乱舞』。
戦国時代から伝わる名工の一族が鍛えた、太刀において天下のブランド品の1つである。
蛇雅理故
No.14366238
2015年04月09日 20:57:50投稿
引用
「水くせぇな!何年俺がお前の相棒やってると思ってやがる!」
そう言うとヒジカタは、モンスターが戦う、目の前のバトルフィールドへと足を進める。
歩むヒジカタから発せられる覇気は、威風堂々とした迫力で満ちていた。
そして、それに続くように、竜己のモンスターが次々と入場する。
2体目と3体目のお出ましだ。
黄金の鱗に身を固めし竜と、大蛇に似た見た目を持つ巨大な竜。
「『グレイトドラゴン』の『ブリザー』!」
「『コアトル』の『オロチ』!」
「「グワァァオッッ‼」」
二匹の竜が名乗りをあげるように雄叫んだ!
グレイトドラゴン、コアトルは、数いるドラゴン系のモンスターの中でもトップクラスの実力を誇っている。
特にコアトルは、その規格外の強さ故、『2体分の強さを持つモンスター』として、大会の公式ルールに登録されている。
コアトル1体でモンスターの出場枠を2体分削らなければならないのだ。
その関係で、竜己のパーティは4体ではなく3体のモンスターで構成されているのだ。
ヒジカタ、ブリザー、オロチからなるそれと、それを率いる竜己は、大会屈指の、『モンスターマスター界のホープ』として、1年程前から大躍進と人気向上を遂げている。
モリーも、竜己の才能には目を見張るものがあると絶賛している。
その竜己と、竜己のパーティが、ここに集結したのだ!
「やっぱり竜己君のドラゴンパーティは凄いね……」
「ピキー!」
「……俺も、もう少しでアレが完成する」
海覇はぼそりと呟いた。
「?」
優衣には聞こえなかったようだが、海覇は、竜己のドラゴンパーティを一心に見つめ、強くこぶしを握りしめる。
その手には、海覇のある想いが込められていた。
蛇雅理故
No.14366992
2015年04月09日 22:00:06投稿
引用
「うむ!彼とドラゴンの織り成す戦術はちょっとやそっとじゃ壊せないぞ!」
「……」
竜己の対戦相手である祐太は、竜の軍団を前にしても、その穏やかな表情を崩すことはなかった。
「……祐太っていったな」
竜己が祐太に話し掛ける。
「アンタは強者の顔立ちだ」
「早くパーティを見せてくれ……!」
竜己はウズウズしていた。
竜己は、その若さに似合わず、数々のマスターと戦ってきた歴戦のマスターでもある。
故に、相手の実力を、一目見たその瞬間に読み取れることもしばしばあるのだ。
いわゆる、直感である。
そして、それに反応したマスターが目の前にいる。
竜己というモンスターマスターは、その事に対して胸の高鳴りを感じていた。
「……僕も、君のドラゴン達は凄く良く育ってると思う」
「……でも、僕の『家族』には勝てない」
『家族』。
祐太はそう言った。
それが何を指しているかは、モンスターマスターなら一発で分かる。
そう。
祐太のパーティが入場するのだ!
ワァァァ!!
竜己の時程の声量ではないが、それでも物凄い喝采である。
そして、入口からモンスターが4体。
同時に登場!!
「『グラコス』の『キング』!」
「『エビラ』の『パラディン』!」
「『エビルアンカー』の『ウォーリア』!」
「『さつじんいかり』の『ポーン』!」
宮殿を連想させる名前のモンスター達が続々と入場。
そして、半魚人に似た『グラコス』と、見た目がまんまエビの『エビラ』、そしてそれぞれ錨から生まれたモンスター『エビルアンカー』、『さつじんいかり』 。
そう、どれもこれも海に生息するモンスターばかりだ。
このパーティ構成には、海覇と優衣も興味を示した様子。
「これまた特徴的なパーティだな」
「あのさつじんいかり……ポーンって子、優しい目をしているね……」
「ピクゥー?」
そうかぁー?と、スラすけは言ったつもりだったが、如何んせん言葉が通じない。
「なるほど……海のモンスター目白押しってところか」
竜己は相手のパーティを見渡しながら言った。
「おもしれぇ、俺の国ノ乱舞で全員刺身にしてやる!」
「落ち着けヒジカタ、4体の内2体は錨だ。」
ブリザーは、錨を刺身にしようとしているヒジカタに対してツッコミを入れる。
「つーか、俺らも刺身にされる気なんかねーけど!!」
エビラのパラディンも、ブリザーに続いた。
「おぉーっと、これは両者共に一触即発!試合が楽しみになってきました!」
「うむ!これは名勝負の予感だッ!」
「だってさ祐太!俺もこの試合、楽勝という訳にはいかなそうな予感だぜッ!」
「……僕も、少しだけ燃えてきたね」
「すげぇ!竜己のあの顔は久しぶりだぜ!」
海覇達が見守る中、ついに……!
今、戦いのゴングが鳴った!
蛇雅理故
No.14371566
2015年04月10日 21:42:36投稿
引用
「了解」
先手を打ったのは祐太のパーティ。
攻撃力増強魔法『バイキルト』により、キングことグラコスの力が倍増した!
「ぬぅんッ!!」
キングはその勇ましい上腕二頭筋を、対戦相手であるであるヒジカタ達に見せつける。
「おおっと」
「ふむ!素晴らしい肉体美ッ!」
場外にいるモリーは、早速その興奮を言葉にする。
「確かに、凄まじいパワーアップを果たしたようだな」
グレイトドラゴンのブリザーは、口から溢れる冷気と共に、その評価を下す。
「言っておくが私に氷の攻撃は通用しない」
キングはブリザーにそう忠告する。
ブリザーは、グレイトドラゴンの中でも随一の氷のエキスパートとして知られている。
しかし、グラコスというモンスターは、氷に対する耐性が他のモンスターに比べ桁違いに高い。
故に、属性上、ブリザーとキングが戦えば、キングの方が圧倒的に有利なのだ。
しかし、ブリザーはこう返す。
「十分心得ている」
「お前を凍らせることは恐らく不可能だ」
しかし、その言葉とは裏腹に、ブリザーの口は笑っている。
冷気を迸らせながら。
「凍らせるのは不可能だが」
刹那、グレイトドラゴンの、腕から……。
鋭い氷の刃が出現した!!
「退避しろキング!」
「!」
祐太の判断はもう少しで 遅し となるところであった。
その氷塊は虚空を貫くが、当たっていれば即死の一撃必殺だった。
「例えば氷柱は時として人を貫く」
「例えば氷山は時として人を潰す」
「氷というのは、お前が思っているほど御することの困難な力なのだ」
氷が体を凍らせられないとしても、ひと度、鋭利な剣に姿を変えればその用途は一変。
生命を刈り取る死神の神器となる。
「なんと……属性攻撃に拘らず、直接的にダメージを与えられる手段を瞬時に見出だすとは」
モリーはその迅速なるブリザーの判断力を評価した。
「流石はモンスターマスター界のホープ……やすやすと落とせる相手ではないか」
祐太は冷静さを欠かすことなく、他のモンスターにも指示を与える。
「ポーンはリザードマンに攻撃を仕掛けろ!方法はお前の判断で頼む!」
「パラディン!お前はキングと連携してグレイトドラゴンの殲滅を目指せ!」
「そしてウォーリアはコアトルにボミエだ!」
連続で言い渡される指示。
しかし、これに応えてこそ、マスターの誇るモンスターといえる。
当然、彼らの答は……。
「「「「了解!マスター!」」」」
「こりゃ今まで戦ったマスターの中でも五本の指に入るかもな!ヒジカタ!」
竜己はヒジカタに振る。
「五本の指に入るかどうかは、この太刀で確かめてやる!」
「かかってこい、海産物共ッ!」
ヒジカタは鞘からついに名刀『国ノ乱舞』を引き抜く!
鋼の鈍い輝きは、会場のスポットライトよりもその存在感を極め、それを操る一人の武士が一心に見据えるは敵の魂のみ!
ヒジカタが今、戦国の夜叉へと変貌する!
「轟け……」
「雷 神 斬 り ッ !」
蛇雅理故
No.14375857
2015年04月11日 13:34:48投稿
引用
刀身を振ると共に解き放たれた雷鳴と電流は、ポーンことさつじんいかりに向かい、バトルフィールドを駆け抜けるッ!
速度は音速と同等。
疾風迅雷の如くポーンに襲いかかるッ!
「むむぅっ!出たかヒジカタの雷神斬りッ!」
モリーの腕を組むその姿も、青白い電光に照らされてはその存在感を失ってしまう。
「まぶしっ」
その雷光は観客席にも著しく広がった。
あまりの眩しさに、海覇達は目を覆い隠す。
そして、優衣いわく『優しい目をしたさつじんいかり』のポーンの瞳に写るのは、自らを焦がさんとする雷の衝撃波。
しかし、『避ける』という思考が脳裏に過ることもなく、その攻撃はポーンに直撃した。
一瞬の出来事である。
雷電に吹き飛ばされ宙を舞うポーンが見たのは、ニヤリと笑う夜叉の姿だった。
「一発で終了したかな……」
「…………いや?」
「そこまでヤワじゃねぇみたいだな」
誰もがヒジカタの勝利を確信したが、被弾したポーンの瞳孔は……。
なおも、戦う意思を示しているッ!
ポーンは耐え抜いたのだッ!!
「もし俺が神経の通った魔物なら、棺桶逝きだったが……」
「イカリだから、雷そのものが与える損傷は軽減された……ってか?」
「チッ、だったら直接攻撃当てときゃ良かったなぁ」
そう言うとヒジカタは、草臥れた様に太刀を肩に引っ提げる。
一方、ポーンは鋭くヒジカタを見つめる。
そして、こう言った。
「俺は負けない。マスターの期待に応える義務がある」
ポーンは、マスターに対するその心意気をヒジカタに見せつけた。
そして、それは観客にも大きな感動を与えた!!
ワァァァ!!
「ヒジカタの雷神斬りを耐えるなんてマジかよ!」
「あのさつじんいかりすごいわ!」
熱狂的な黄色い声が会場に響き渡る。
「うむ!実に素晴らしいガッツだッ!」
これにはモリーも絶賛。
「アンタんとこは……あの半魚人が最強だと思っていたが、それは検討違いだったようだな」
「……俺がキング様よりも強いとでも?」
「アンタらはそう思っているだろうが、俺の目からすりゃ、アンタの方が延びしろがありそうだぜ」
ヒジカタは、宙に浮くポーンを見上げながら言う。
その言い方こそは、まだまだ余裕がありげだが、手に持つ太刀は微かに震えている。
しかし、それは決して恐怖の震えではない。
俗に言う、武者震いだ……!
「確か『ポーン』だったよな、お前の名前……」
次の瞬間、ヒジカタは再び太刀を構え、こう言い放つ。
「俺は横文字が苦手なんだが……お前の名前は余裕で覚えられそうだッ!」
ヒジカタはポーンを認めた様だが、ポーンの表情は少し渋かった。
「……俺のことをここまで評価したのは、マスターに続いて二人目だ」
「……俺になんの力があるというのか」
その言葉の後、ポーンの心情は一変。
「何にしても俺はマスターに勝利を捧げるのみッ!」
ポーンは再び戦意を露にしたッ!
そしてヒジカタは、その決意に抗うッ!
「勝利ってのは捧げるもんじゃねぇ!」
「共に勝ち取るもんだッ!!」
蛇雅理故
No.14382370
2015年04月12日 00:43:58投稿
引用
他方、ブリザーvs.キング&パラディン。 オロチvs.ウォーリア。
いよいよ試合が盛り上がってきたというところだが、ここで海覇が急に席を立つ。
「……今日で完成させてやる」
海覇はそう言った。
優衣は、海覇が完成させようとしている物を知っているが、当然、試合中なので引き留める。
「試合を最後まで見ようよ!それとも……」
飽きちゃった? とまで優衣は言おうとしたが、海覇の顔を見た後では言えなかった。
海覇は、名残惜しそうな濁い表情を浮かべていた。
しかし、海馬の足は確かに出口へと向かっている。
「待って!」
「ピキー!」
優衣とスラすけは、海覇を追いかける。
「止めないでくれ」
海覇にその呼び掛けは届かない。
海覇はこう、言葉を続ける。
「今までの試合は竜己の圧勝だった」
「だから、俺ものんびりアレを開発していた」
「だが、あの祐太って選手を見て感じた」
「モンスターマスターのレベルが上がってきた……と」
「……!」
その言葉は、振り向き様に放たれた。
優衣が見た海覇の瞳は、何時になく真剣なそれであった。
「本気を出さないと、本当に俺は取り残されてしまう」
「そうなってからじゃ、遅い」
「俺の先祖……『Dr.デロト』の願いを叶えられなくなってしまう」
「海覇君……」
優衣は胸に手を当て、海覇の想いを汲み取った。
「….…私も手伝うよ!」
「ピキピキッ!」
「……!!」
海覇は感じた。
自分にはこんなにも健気で優しい友人達が居るのだと。
「……フッ」
海覇はクスリと笑った。
「ああ……頼む、優衣ちゃん」
今の自分は何でも出来ると知ったからだ!!
蛇雅理故
No.14392126
2015年04月12日 23:10:34投稿
引用
その勢いは留まることを知らない。
「シャァアアア……!!」
これは蛇の叫び。
『コアトル』の『オロチ』は、『デビルアンカー』の『ウォーリア』と交戦中であった。
祐太がウォーリアに出した指示は、速度減少魔法『ボミエ』の詠唱。
コアトルのスピードをダウンさせることで、コアトルの攻撃手段を減らそうという祐太の策である。
「ちっ……やっぱ遠距離攻撃の『ブレス系攻撃』しかさせてねぇと『MP』がじり貧だな」
竜己の口から、次々とモンスターマスターの専門用語が流れ出る。
『ブレス系攻撃』とは、即ち『火炎の息』などの息を使った攻撃の総称。
そして、『MP』とは、前述などの攻撃を使用するために消費する魔力のことを指す。
要するに、ボミエによってほぼ直接での攻撃が不可能なオロチが、相手にダメージを与えるにはブレス系攻撃を駆使する必要があり、そしてそのMPを消費していく内に、漸次それが無くなってきたので、いよいよ手も足も出なくなってきた……という状況だ。
つまり、オロチのピンチである。
「皮肉なものだな……オロチとかいうものよ」
ウォーリアがオロチに吐き捨てる。
「お前は私に精一杯息を当てているようだが、私はその度『べホイミ』で体力を回復させている」
「つまり、お前は自分で自分の首を締め……おっと、蛇の首ってドコだったかな?」
「フハハハ……!!」
ウォーリアは、あまりにも自分が有利な立場に居るため、余裕な態度でオロチを挑発する。
ウォーリアは嘲笑った。
目の前で、自分がかけた魔法で苦しむ大蛇を。
「……うむ。これには流石のオロチも苦しいか」
モリーも、オロチが今不利な状況だと悟っていた。
しかし、オロチは……。
「……キシャアアアァァアッ!!!」
「ッ!?」
突如として、蛇の咆哮が大地を揺るがす。
その全身を奮い立たせ、乱れ舞う姿は闘牛にも似た荒々しい狂気。
さながら、中国に歴史的に伝わる墨絵から現世に飛び出てきたかのような迫力だ。
それは、それ以外に形容しがたい。
そして、ウォーリアは次の光景に戦慄した。
オロチを覆っていたボミエの魔法は、振り落とされるように、オロチの前から消えていったのだ!!
「バ……」
「バカなァァァ!!」
そのウォーリアの絶叫の後、竜己が口を開く。
「まったく……あんだけ笑ったら誰でも怒るに決まってんだろ」
「怒っただけで振り落とせるものか!!私のボミエを……」
「それをオロチはやってみせたんだぜ!」
「グッ……!!」
ウォーリアは、再びボミエをかけようとする。
しかし、ここでウォーリアはある『重大なこと』に気付いた。
「まさか……!!」
オロチが、ブレスの使いすぎでMPが切れたのなら……。
ウォーリアも、何かを使いすぎて……。
「お前さっき言ってたよな?」
「オロチに攻撃されるたび、べホイミをかけてたって」
「ぐぅぅぅッ!!」
『べホイミ』は、指定した者の体力や傷を回復させる魔法。
便利な魔法ゆえ、MPの消費もそれなりにある。
つまり……。
M P 切 れ ッ!
「僕としたことが….ッ!相手を見誤りすぎてるッ!」
祐太は自らの判断を悔やんだ。
まさか、魔法を憤怒という感情だけで取り払ってしまうモンスターがいたなんて……と。
「さぁーて、魔法が使えなきゃただの鉄の塊だよなぁ?」
「!!」
「やっちまえ!オロチッ!」
「キシャアアアァァアッ!!!」
「うっ……うわぁぁぁ!!」
……その禍々しい歯牙……
強靭につき。
蛇雅理故
No.14397334
2015年04月13日 19:48:49投稿
引用
試合を観るのを止めた海覇達は、今は『アレ』を作るのに頭を悩ませている。
「おかしい……俺が繋いだ回線がどうしてもシステムに反映されない!」
海覇の手に握られたスパナは、て汗で少しベタついていた。
家に帰って直ちに机に向かい、その36分後辺りから、海覇はずっとイライラしている。
そのためか、実は、工具達は開発の途中で何度も投げ飛ばされそうになっていた。
しかし、物に当たるのは良くないという優衣の注意により、なんとか高ぶる感情を抑制できたが、工具からすれば随分と冷や汗をかかされたであろう。
そんなこんなで、海覇の頭がショート寸前というところだが、部屋にお茶を運んできた優衣はこう助言する。
「ちゃんと、海覇君のご先祖様が書いた設計図も見てる?」
「海覇君はよく、自分の主観で行動を進めちゃうタイプだから……」
「な、なんだよー!優衣ちゃんまで母さんみたいなこと……」
ふと、海覇はその設計図を今一度よく見てみる。
「あっ……」
間違えていたみたいだ。
「もう……」
優衣は、呆れて言葉を詰まらせるしかなかった。
「もう少しで……っ!」
気付けば時計の針は午後の4時を指していた。
海覇の机に山積みになっていた機械の部品は、残すところ、その時の1/6程度になっていた。
数ヶ月前の開発開始当時、何も埋め込まれていなかった基盤は、使われた部品達によりその内容を充実させていった。
海覇の頭脳は、全盛期のDr.デロトにはまだまだ及ばないが、その血を受け継いでるだけあって、既に普通の科学者の持つ技術力を卓越した技能が海覇には備わっている。
……先程は、少しばかりつまづいていたようだが。
そして、更に1時間が経過しようとしていた時。
ついに……。
ついに!
ついに完成した!
ブルーメタルの肉体を持ち、2本の斧を豪快に振り回し、背中には魔力を溜め込んだタンクが搭載されている。
Dr.デロトの第一の傑作と呼ばれる『キラーマシン』の原点。
その存在は、デロトの血族か、世界中を旅し尽くした者しか知らない。
キラーマシンのプロトタイプ……。
その名もッ!
「『プロトキラー』!!」
蛇雅理故
No.14402423
2015年04月14日 18:44:02投稿
引用
海覇は、今日一番の笑顔で叫んだ!
まさしく、歓喜の叫びである。
「やったね!海覇君っ!」
「ピキー!」
優衣とスラすけも、海覇に同調し、満面の笑顔で祝福する。
海覇は、今一度、自分の目の前の『作品』を見てみる。
7ヶ月にも及ぶ製作期間を経て、やっと完成した『プロトキラー』。
青く鈍い輝きは、アメジストを思わせる高貴なる光。
背中に積まれた魔力のタンクは、まだ一滴の魔力も入れていないが、2kは入る容量がある。
因みに、2kあれば、炎の魔法『メラ』の最高位呪文『メラゾーマ』を2発は撃てるのだ。
そして、なんといっても一番見る人の目を光らせるのが武器!!
多種多様、千差万別の武器の中から選び抜かれた、プロトキラーの武器は……!
……ホームセンターで売っていた斧である。
「……斧が一番高かったなぁ」
海覇は確かに凄い技術者だが、その前に一人の子供。
流石に武具屋で売っているような武器には手が出せなかった。
なにせ、店で売ってる中で一番安い『鉄の剣』でも、2、3万は持っていかれるので、仕方がない。
「あとはコンセントを指して……っと」
プロトキラーは充電式で稼働するので、ケーブルを通して電力を装填しなければならない。
そして、その充電時間は『12時間』。電力満タン時の稼働時間は『24時間』。
必然的に、今日中にプロトキラーを起動することは不可能なのだ。
「この子の活躍は明日からじゃないとみれないのかぁ……」
優衣は、待ちきれないと言わんばかりにしょんぼり。
「まぁ……仕方ないさ」
「……にしても」
海覇は、窓から差し込む夕暮れにスポットライトの如く照らされたプロトキラーをみて、ふと思い出す。
苦節……開発の日々を。
そして、7ヶ月前に届いた、海覇の先祖『Dr.デロト』の遺言。
今、Dr.デロトの求めていたものは完成したのか……。
それとも、まだなのか……。
もし後者なら、Dr.デロトの求めていた物は何なのか……。
追憶の先に、次々と想いを馳せる自分の思考。
……そして、海覇はある結論を出す。
「……俺のご先祖が考えていたことは、まだよく分からない」
「……でも、これだけは言える」
「……やっぱ、マシーンを作るのって超楽しい!!」
その日二度目の、清々しいくらい快い表情。
優衣は、そんな海覇が輝いて見えた。
「……それでこそ海覇君、だねっ」
「ピキピキッ」
「……なぁ、優衣ちゃん」
「?」
唐突に海覇が切り出す。
「……俺、今日は優衣ちゃんとスラすけに手伝ってもらって本当に嬉しかった」
「プロトキラーを無事に完成できたのは、優衣ちゃん達のお陰でもあるんだよ」
「そ、そんな……私はこれっぽっちしか」
そう言いながらも、優衣の頬は夕日よりも濃く染まっていた。
因みに、優衣は、パーツの塗装と組み立てを主に海覇を手助けしていた。
海覇は頭を使うので精一杯なので、優衣のようなアシスタントは、海覇にとって重宝するのだ。
そして、スラすけは……。
……スラすけは……。
…………………。
それは置いておいて、海覇は言葉を続ける。
「なぁ、優衣ちゃん……実は俺」
ふと突然、海覇の放つ雰囲気が変わる。
「な、何?」
夕焼けが演出するムードは、一瞬で二人の間の空気を別の色にした。
優衣の心臓は、バクバクと高鳴りを始める。
(ちょっ……海覇君の雰囲気がいつもと違っ……)
(も、もしかして……)
優衣の頭の中には、『こ』で始まって『く』で終わる単語がびっしり張り付いていた。
(そ、そんなぁぁ!私、心の準備が)
心の準備をする間もなく、海覇の口元は再び動き出す。
「俺、優衣ちゃんのこと……」
「夕食に誘おうかと思ってるんだけど……」
「はひぃぃぃぃぃ!!!」
「……へ?」
「そっか!よかった」
優衣の頭で渦ていていた言葉の嵐は、一瞬で遠い彼方へと飛んでいった。
(夕食?)
あれ、想像していたものとだいぶ違う……『く』しか合っていない。
優衣の思考には、ぽつんとその一文しか置かれていない。
「どうしてもお礼がしたくて……あっ!勿論スラスすけにも、な!」
「そうだ!料理は母さんに作って貰うんだから、スラすけのご飯は俺の残った小遣いをはたいて振る舞うよ!」
「ピッキーーーッ!」
「……はっ!」
優衣の飛んでいた意識は、スラすけの喜びにより、なんとか覚醒した。
「…………うん!ありがとうっ!海覇君っ!」
(……ま、いっか!)
優衣は、マフラーの緩みを直して、海覇と共に下へ降りていった。
蛇雅理故
No.14409237
2015年04月15日 22:52:04投稿
引用
時を遡ること3時間。
ウォーリアはオロチの猛攻撃に耐えきれず、瀕死の状態で地面に平伏している。
その横で、グレイトドラゴン……ブリザーの戦いは、他の仲間に比べてだいぶ苦しいものとなっていた。
「さすがに2vs1では……」
ブリザーの口から吐かれるのは吹雪ではなく弱音。
相手は、どちらも氷体制が高い『グラコス』のキングと『エビラ』のパラディンの2体。
単純な氷属性の攻撃が効かないので氷の剣での攻撃を主として戦うも、相手が複数な以上、連携をしてくるので、ブリザーは中々斬撃を当てられないでいた。
(我ながら不甲斐ない話だ……私が一番得意とする氷で相手を仕留められないとは)
ブリザーは自責の念に駆られていた。
そのせいか、戦いに対する集中力が損耗していき、二体からの攻撃を段々とかわせなくなってきた。
「先程までの勇姿はどこにいったッ!ブリザーッ!!」
グラコスはブリザーを見兼ね、怒り、怒濤の連続攻撃を仕掛ける!!
「さ み だ れ 突 き!!」
刃が絶え間なく突きつけられ、その動きの速さが、雨のような無数の残像を作っている。
それは幾度もブリザーの四肢を打ち付け、竜の生命を奪い尽くしてゆく。
「ぐふっ!ぐはっぁぁぁッ!!!」
「ブリザーッ!」
ブリザーの悲鳴と、竜己の叫び声が響き渡る。
ブリザーに刻まれた刺し傷は、指で数えられる数ではなかった。
ドクドクと溢れる深紅の血液にまみれた姿は、目を塞ぎたくなってしまう程。
壁に押し付けられたブリザーと、壁に武器を突き立てブリザーを追い詰めたキング。
この状況、まるで……。
「これが噂の、『壁ドン』ってヤツぅー?」
「………………」
パラディンの大ボケが、戦場を沈黙へと誘った。
「わ、私はそのような劣情でこのようなことをしたわけではっ……!」
なぜかキングが赤くなる。
「第一ブリザーは男であろう!パラディン、貴様なんたる不純な妄想を……」
「……いや」
「?」
ブリザーの一声がキングの言葉を止める。
「…………」
「……私は」
「私は女だ」
「ナニィーーー!?」
ブリザーから告げられた衝撃の事実。
しかし、意外なことに、驚いていたのは……。
……キング一人だけだった。
「えっ……気付いていなかったのかキングさん?」
「なんと……」
「キング様……私は少し貴方のことを見損ないました」
「……キング」
祐太のパーティ一同、キングに失望。
全員、キングから距離をとる。
「……えっ!?もしかして私だけか!?気付いていなかったの!?」
「いや、普通気付くでしょ……だってほら、尻尾の先端を見てみなよ」
パラディンはそう言って、ブリザーの尾を指……いや、ハサミで指す。
「?」
キングはまさかと思い、早急にブリザーの尻尾に目をやる。
ブリザーの尻尾の先端は、若干緑色に染まっていた。
因みに、決して血の色ではない。
「まさか…………」
「あの緑色の尻尾があるかどうかで、グレイトドラゴンの性別が分かるんですよ」
「なんだとぉぉぉぉ!?」
衝撃の豆知識が、パラディンの口から告げられ、観客の中には、「へー」と頷く者が過半数。ドヤ顔で「俺は知っていたけどね」と語るものが少数。
「少し『かしこさ』が足りていないようだな」
「腕は確かだが、ちょっと魔物の教養がなっていねぇようだな」
モリーと竜己は、祐太に冗談まじりで苦言する。だが……。
「そうだね……僕としたことが、今日は自分の未熟さをよく実感する日だ」
祐太は本気で自分の失態だと思い込み、本当に悔しそうな顔で俯いてしまった。
竜己は「真面目な奴だなー」と、若干引きながらも感心していた。
(ま、まさかこんな大事になるとは……こんなことなら日頃から勉学にも打ち込むべきだった)
キングは体を鍛えることにばかり時間を費やしていたので、少し頭脳の方が乏しいのは確かだが、それとこれとは関係ないということには、キングは気付けなかった。
「……おい」
「!」
ブリザーの突然の声かけに、多少ビビりながらも反応するキング。
「貴様、さっきと比べて緊張感がまるで無くなったな」
「あっ……あまりにも突然なことだったものでな……」
次の瞬間、ブリザーの放つ気が……。
「それはどういう意味だ?」
殺意へと変貌した……!!
「ひぃっ!?」
あまりの恐ろしさに、情けない声を出してしまうキング。
キングの頭から、夥しい量の滝汗が流れ落ちていく。
さっきまで死にかけだった目の前の敵は、一瞬でその力を取り戻し、自らの元へにじりよってくるのだ。
「つまり、私が女だと分かり、気が抜けたと?」
「決してそういうことでは……っ!?」
……この女の前で、キングは嘘を突き通すことができなかった。いや、できるはずもなかった。
自分の浅はかな態度がきっかけで覚醒してしまった彼女の内なる力……。
その確かなる力を前にして、今更『そうではない』とはとても言い切れなかった。
「……先程は自分の心が弱き自分に支配されていたが」
「もう……跡形もなくそれは消えた」
その雌竜の眼光に照らされたキングの表情は、まさに『死相』そのものだった。
『殺されるっ………!!』
しかし、キングは逃げることを選ばなかった。
逃げることさえも馬鹿馬鹿しく思えるほどの、激しい殺気。
幾つもの恐怖が、キングを取り囲む。
「消えろ」
「私の前から」
「その醜悪な姿を」
「二度と見せるなッ!!!!」
ブリザーの両手から発生したブリザードから生成される双剣の如し氷柱は、目にも止まらぬ速さで、赤い血の色へと染まる。
キングの『さみだれ突き』以上の迅速な連撃が、キングの肉体を鱗ごと引き裂き、貫き、切り刻み……。
形が残らぬ程に、ブリザーは何度も何度も双剣を感情のままに振るった。
『ブ リ ザ ー ラ ッ シ ュ』!!
蛇雅理故
No.14413852
2015年04月16日 23:58:39投稿
引用
パラディンの、キングを叫ぶ声が、虚しく響き渡る。
……ブリザーの氷の奥義は、とても冷徹で残忍なものだった。
冷ややかな氷剣は……。
一撃一撃を確実に敵の死を誘うものとして、まるで凍っていく水のように……。
……じわじわと、キングの生命活動を凍結させていった。
その結末はあまりにも悲惨なもので、キングは『ただの肉塊』にされるまでブリザーに斬りつけられ、その死体の回りには……。
……肉片が散乱している。
この、異常で、異質な光景は、ブリザーの仲間を含め、この場にいる者全てを戦慄させた。
「ブリザー……。激怒すると、正気とは思えないほどに冷酷な性格になるとは聞いていたが」
「まさか、これほどとは……」
祐太は俯いて、その衝撃を言葉にした。
……竜己と竜己のパーティは、日本のモンスターマスター界では凄く有名な部類。
故に、その性質は、これまでの竜己の試合から分析され、多くの人々に知られているのだ。
そして、その性質の中には、このようなものもある。
『ブリザーの怒りは、血の雨を大いに誘う』
……まさに、今のような状況を指した言葉だ。
「こ、こぇぇ……」
「恐るべし女傑……」
「……もしや、竜己殿のパーティ最強モンスターは彼女なのでは?」
あまりの残虐ショーっぷりに、流石の祐太のパーティもドン引き。
……しかし、仲間一人が死んでしまったのにも関わらずこのような碎けた雰囲気なのはなぜなのか?
……これにはちゃんと理由がある。
「ブリザー……まさか君は『普段』、こんな理由で魔物を殺してしまうのか?」
祐太の問いにブリザーが答える。
「そんなわけないだろう……普段の私はもっと温厚だ」
「嘘つけ」
ヒジカタが茶々を入れた次の瞬間、ブリザーの、冷気がこもった腹パンが、ヒジカタの鎧に覆われた腹部に直撃。
「ごほおっ!?」
ヒジカタは激痛に耐えきれず、そのまま地に横たわり身悶えしてしまう。
……なんという情けない姿。
「しばらく寝ていろ」
なおもブリザーは冷たく吐き捨てる。
「……本当に、温厚なのか?」
ヒジカタの有り様を見ながら、祐太は呆れ気味に再確認する。
「……だから、そうだと言っているだろう」
ブリザーは、あくまでも言い切った。
蛇雅理故
No.14413984
2015年04月17日 00:53:56投稿
引用
……キングは、生き返る事ができるからだ。
……実は、この世界にはなんと、死んでしまった者を生き返らせる呪文が存在するのだ。
その名も『ザオリク』。
この、死者蘇生魔法が、さ迷う魂をこの世に呼び戻し、人や魔物の生命の光を再び灯すのだ。
……しかし、『死んだ者を生き返らせる』という行為そのものは、古来より『生死の概念を曖昧にし、生命そのものを冒涜しかねない』とされ……。
……今より100年程前に、ザオリクの使用に規制がかかってしまった。
以来、世界が認可した賢者団『命の灯火』という組織のみが、ザオリクの使用を認められ、もし、それ以外の者がザオリクを使用した場合……。
……最悪、『死刑』の判決を下されることもある。
そして、この『命の灯火』は、3人の賢者から構成される組織で、その内の一人は『魔物の命を司る賢者』とされている。
その賢者は、『闘いの神』の意思に従うことで、死んでしまった魔物を生き返らせるのだという。
神に是非を問い合わせ、許可が降りた場合のみ、初めてザオリクを詠唱できるのだとか。
例えば、今回のように、『命を懸けて戦った魔物』なら、闘いの神がその健闘を称え、生き返ることを認可してくれる。
しかし、『不慮の事故で死んでしまった魔物』などの場合、『これに抗うこと、即ちその者への冒涜』とされ、神からの認可が降りないのだ。
……このように、ザオリクという魔法の使用を制限することで、『生命のバランス』を保っているのだと、『命の灯火』はいう。
こうした、ザオリクという呪文を巡る事情は、ここ数十年のうちに大変複雑となり……。
それに伴い、人々は次第に、『生死』という概念と改めて向き合うことができ、反省し……。
……命の尊さを重く見るようになった。
……と、長くなったが、そういうことで、キングは決してこの世に戻らないわけではないので、『ある程度』は悲しみが軽減される。
……しかしながら、暫くの間キングとはお別れなのは確かなことで……。
魔物を『家族』と呼んだ祐太の表情は、やはり哀愁を帯びていた。
だが、肝心の『家族』達からしてみれば、負けてしまえば皆お陀仏なので、『戦力』が減った程度にしか思われていないのが、またなんとも言えない……。
蛇雅理故
No.14414073
2015年04月17日 01:37:13投稿
引用
祐太は、2匹の名を呼ぶ。
その呼び掛けに、直ちに『残った全員』が祐太の方へ顔を向ける。
しかし、ただ一人呼ばれなかったウォーリアだけは、不安そうな表情を浮かべる。
「……ウォーリア、君はもう瀕死の状態だ」
「棄権してくれ」
「!」
マスターたる祐太から、突然の宣告にショックを隠せないウォーリア。
「な、なぜです!私はまだ戦え……」
『ます』とまで、ウォーリアは言えなかった。
「グボァッ!!」
溢れんばかりの吐血が、ウォーリアの発声を妨げる。
もうまともに喋ることすらままならないほどに、
ウォーリアは弱った状態なのだ。
故に、祐太はウォーリアに対し、棄権を促す。
「これ以上戦っても、君が傷付くだけなんだよ」
「今回は、棄権してほしい」
「しかし………!!」
ウォーリアは、どうしても祐太の役に立ちたいと願うばかり、強く反発してしまう。
……しかし、祐太は……。
「いいかいウォーリア」
「確かに、命を懸けて戦った魔物は、闘いのか神様に誉め称えられるよ」
「でもね」
祐太の声は……。
「『命を懸ける』というのは、決して『命を投げ捨てる』ことではないんだ」
……淡い青色のように、優しいものだった。
「….!!」
その時、ウォーリアの中で、なにかが吹っ切れた。
祐太の優しい眼差しが、ウォーリアの心のつっかえを取り払ったかのように。
自分で自分の首を締め付けていた何かが、ウォーリアから消え去った。
ウォーリアのたった一つの目が語るのは、清々しい『諦め』。
「……分かりました」
『諦め』こそが、彼の心を救ったのだ。
瀕死といえば、キングの『さみだれ突き』により全身を串刺しにされたのにも関わらず、全力をかけた怒りの『ブリザーラッシュ』を放ったブリザーの体力も、相当窮地に立たされていた。
これを重く受け取った竜己は、祐太の判断と同様に、次の行動に出る。
「そういうことなら……ブリザー」
「……私も棄権、ですか……」
ブリザーも、先程の祐太とウォーリアのやり取りをしかとその虚ろな目で見ていたので、なんとなく諦めがついた表情で竜己の方に振り替える。
「……できれば……ウォーリア?だっけ、あいつと一緒に病院に連れていって貰え」
「……分かりました」
そこへやって来たのは、常に舞台裏でスタンバイしている搬送係。
ブリザーとウォーリアを病院に連れていくべく推参した。
「……必ず勝ってくださいね」
別れ際に、ブリザーの竜己に対する丁寧な言葉遣いと、全てを竜己に託すような笑みは、竜己の精神を律させた。
….…そして、搬送係は、外に停めてある救急車に2匹を連れ込み、そのまま病院へと向かっていった。
「うむ……ここまで1体が死亡、そして2体が重体による棄権、か……」
「いよいよもって、両者の魔物も減ってきたというところか」
モリーは、2体が退場したことによって静寂が訪れた会場において、一人、変わらず試合を見守っていた。
「……さぁ、祐太」
「第2ラウンド……始めようぜッ!」
「望むところだッ!」
蛇雅理故
No.14418133
2015年04月17日 23:23:11投稿
引用
「!?」
突然、『コアトル』のオロチがおぞましい叫び声をあげる。
どういうわけか、オロチは、怒り狂っている様だ。
「な、なんだ!?」
「何事だ!?」
いきなり怒りを露にしたオロチは、そのまま感情のままに……。
……なんと、暴走を始めた!
「うわぁっ!!」
オロチはバトルフィールド全体をかき回し、狂乱の如く辺りを破壊をし尽くす!!
「どうしたんだ!?オロチ!!」
竜己はオロチに必死で呼び掛けようとするが、生憎、オロチは人間の言葉を話すことができない。
最も、話すことはできなくとも、人間の言うことは理解できるので、竜己の呼び掛けそのものはきちんと聞こえているのだが。
だが、竜己の呼び掛けも虚しく、オロチは、暴れ馬の如し、なりふり構わず、なおもその暴れっぷりを見せつけている!
「『俺はもう我慢できねぇ!さっきから茶番ばっかで退屈なんだよッ!』」
突然、ヒジカタが不可解な発言をする。
「なにを言っているんだ!?ヒジカタ!?」
ヒジカタまでおかしくなったのかと、竜己は心配そうな顔でヒジカタを見る。
「そんな顔で見るんじゃねぇ!!オロチがそう言ってるって話だよ!」
つまり、オロチの通訳をしていたということである。
ヒジカタとオロチは同じドラゴン系のモンスターのため、言語がある程度通じあうようになっているのだ。
「オ、オロチ……いくらなんでも茶番って」
「そうだそうだ!結構感動シーンだったんだぞ!」
パラディンがオロチの態度に反感を示した。
……しかし、そのパラディンの態度こそが……。
「キシャアァァア!!」
更にオロチの怒りを買うことになってしまった!!
「な、なんて言ってる?」
「『黙れこのクソエビ野郎!ぶち◯してやるッ!』だって」
「Oh……」
想像以上に粗暴な言葉遣いの使い手のようだ。
「…………………」
これには会場の皆さんも絶句の様子。
「な、なんて野蛮な」
祐太の口からは、まさに正論が飛んでくる。
オロチは暴虐なるその神経を持ってして、次の瞬間……
「シャアアアアッッ!!!」
「!!!」
ついに、パラディンとポーンに襲いかかったッッ!!
圧倒的な質量の大蛇が超速で突進してくるッッ!!
「グハァッッ!!」
さすがに避けられる筈もなく、あっという間にパラディンが吹き飛ばされてしまった!!
「パラディン!!」
遥か上空を舞うパラディンを見上げる祐太だが、恐怖の暴走列車の次の矛先は、『さつじんいかり』のポーンだ。
「シャアアアアッッ!!!」
世にもお恐ろしい形相で、ポーン目掛けてタックルしてくる大蛇。
対するは、錨程の大きさの魔物。
力の差は火を見るより明らかで、もう、誰もが竜己の勝利を確信した。
……しかし、竜己達はこの時、なぜか不安そうな顔を浮かべていた。
普通なら、激怒したオロチなど止められる筈も無く、もう、この地点で自分達の勝利が決まっている筈なのに。
なのに……。
なぜ、こんなにも………。
「……確かに早い」
「……だが」
「先程見せてもらった雷神斬りや、ブリザーラッシュ程では無いッッ!!」
なぜこんなにも、この『さつじんいかり』は全てを達観した目つきをしているのかッッ!!
なぜなんだ!?なぜなんだ!?と、竜己の頭はそれでいつの間にか一杯になっていた。
それは、本当はもっと簡単なことだったのに。
(今だッッ!!)
オロチの超絶的な威力の体当たりが、ついにポーンに直撃しようとした、その時ッ!!
「ぬんっ!」
……極めて薄い魔力の膜が、ポーンの全身を纏った!
「!!!」
……この地点で、竜己やモリー、そしてごく一部の熱狂的なモンスターマスターファンは気付いてしまった。
ポーンがやろうとしていることを。
「シャアアアアッッ!!」
だが、オロチは完全に勝ちを確信し、そのままトドメの一撃をお見舞いに向かう!!しかし…………。
……次の瞬間、ポーンの口から、信じられない単語が飛んできた。それは…………。
「……『 ア タ ッ ク カ ン タ 』」
……『アタックカンタ』。
それは、受けたものを反射する『反射魔法』の一つ。
そして、『アタックカンタ』が反射するもの。それは……。
敵 の 直 接 攻 撃 。
蛇雅理故
No.14425039
2015年04月18日 23:39:14投稿
引用
あまりにも一瞬の出来事ゆえ、その一部始終を確認できた者は、ほんのごく僅かだった。
そして、その一人である竜己は今、この世に存在しないものを見ているかのような眼差しで、呆然と立ち尽くしている。
「……ウ、ウソだろ……」
……オロチの攻撃は、『アタックカンタ』によって反射されたのだ。
……このように攻撃を跳ね返した場合、それと同じ威力のエネルギーの塊が標的に向けて放出される。
つまり、コアトル程の巨大な質量の魔物が超スピードで突進してきた時と同等の威力のエネルギー弾が、コアトルに『ゼロ距離』で放たれたわけだ。
するとどうなるだろう。
……ポーンの目の前に居た化け物は、影も形も無くなっていた。
……即ち、『消滅』。
本来、種族的にも圧倒的な力の差があるさつじんいかりとコアトルだが……。
……『アタックカンタ』というカウンター魔法の存在と……。
……オロチをギリギリまで惹き付け、最後まで『アタックカンタ』の存在を敵に悟らせなかったポーンの尋常ならざる超直感が……。
……種族の壁をぶち壊し、見事に逆転をして見せたのだッッ!!
「な、なんだかよくわからねぇけど……」
「す、すげぇ……!」
「「「「「ウォォォォォ!!」」」」」
観客は、これ以上にない程の拍手と歓声を、ポーンに送った。
思えばポーンは、この試合において、2つの逆境を乗り越えた。
一つは、ヒジカタ戦での雷神斬りという逆境。
もう一つは、コアトルという逆境。
二つもの不利な状況を覆したポーンの功績は、観客を湧かせるには十分だった。
そして、ヒジカタは、今、目の前にいるさつじんいかりに対し、改めて……。
「……おっもしれぇ……!!」
敵対心を燃やした!!
「……祐太様、先程貴方が言おうとしたこと……」
ポーンは、振り向かずに祐太に話しかける。
「あ、あぁ……それは」
祐太が言葉を言いかけたが、ポーンは……。
「……言わなくとも、私は分かっていますよ」
「『ウォーリアの仇をとってくれ』」
「……!」
「……でしょう?」
ポーンは、祐太の心中を既に察していた。
自分の魔物を『家族』と呼び、そして本当に家族の様に魔物を慕う彼の性格を知るポーンからすれば、それは容易いことであった。
……そして、ウォーリアの仇『オロチ』を見事に討ち取ってみせたポーンは、その祐太の願いを叶えたことになる。
そうすれば、ポーンの心に残る信念はただひとつ……。
「……あとは、勝利を『共に勝ち取る』のみ」
「!」
ポーンの、勝利に対する観念は、いつの間にか『捧げる』ものから『共に勝ち取る』ことへと変わっていた。
「ヒジカタ殿……貴方が教えてくれたことだ」
「お前……!」
……ライバル同士でありながら、二人の間には、一つの友情の芽が芽生えていた。
もはや、この一騎討ちの対決に不足はなし。
邪魔する者もいなければ、共闘する仲間も居ない。
残った体力で、スーパーサドンデスというわけだ!
「……」
「……」
二人は、暫くの間にらみあう。
ヒジカタは、太刀『国ノ乱舞』を輝かせ……。
ポーンは、自身の銅を鈍く光らせる。
互いが持つ魂を……。
互いが持つ全力を……。
……互いが持つ、命を!!
懸けてッッ!!
ついにッッ!!
「「いくぜッッ!!」」
決戦の時が訪れたッッ!!