水曜日…の優しさに泣いた
「木曜日、ひとりぼっちの日」改訂版
朝の教室。
木曜日は、まだ人の少ない廊下を歩きながら教室の扉を開けた。
すぐに気づく。隣の席のエドロの姿がない。
机の上に鞄もない。
席に座っていると、前の席のクラスメイトが振り向いた。
「エドロ、風邪で休みだってさ」
「ああ…そうなんだ」
木曜日は短く答えて、机の中から教科書を取り出した。
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午前の授業
国語の時間。
いつもならエドロがひそひそと小ネタを飛ばしてくるのに、今日は何もない。
黒板の文字を写すだけの静かな時間が、妙に長く感じられた。
次の休み時間、教室の後ろから笑い声が聞こえてくる。
火曜日と日曜日が机を並べてゲームの話をしていた。
「なあ木曜日、お前こういうの知らんだろ?」
日曜日がニヤニヤしながら聞いてくる。
「…まあ、あんまり…」と答えると、火曜日が笑って言った。
「やっぱなー!お前絶対こういうの置いてかれるタイプだわ!」
周りも少し笑い、木曜日はそれ以上返せなかった。
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中休み
廊下でプリントを持っていたら、角からナイキャットが歩いてきた。
「ふーん、あんた…相変わらず地味ねぇ」
それだけ言って通り過ぎるナイキャット。
視線の冷たさだけが残った。
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昼休み
机に座ってお弁当を取り出す。
金曜日が土曜日に盛り付けをして笑っている。
勇気を出して声をかけようと近づくと、金曜日が少し眉をひそめた。
「ごめん、今忙しいから後でね」
あっけなく拒まれ、木曜日はそのまま席に戻った。
机の上は、やけに広く感じる。
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午後の授業前
月曜日が隣の机に腰かけてきた。
「お前さ、そんな頑張っても無駄だって」
何が、とは言わなかったけど、心の中を冷たい手で掴まれたようだった。
チャイムが鳴ると月曜日は何事もなかったように自分の席に戻っていった。
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午後の授業
歴史の教科書を開いたまま、心は上の空。
エドロがいたら、今頃くだらない質問で先生を困らせてただろう。
そんな光景を想像して、小さく笑ってしまう。
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放課後
クラスメイトたちは次々に教室を出ていく。
鞄に教科書をしまおうと机の中に手を入れると、指先が何かに触れた。
小さな白い封筒だった。
開けると、ゆるい丸文字が目に飛び込む。
「木曜日へ
いつも横に座ってくれてありがとう。
明日はまた、一緒にしょうもない話しような。
? 水曜日」
木曜日は、手紙を見つめながら小さく息をついた。
孤独で心が削られた1日だったけど、明日になればまた笑える。
封筒をカバンに大事にしまい、教室を後にした。
廊下の窓から差し込む夕日が、少しだけ温かく感じられた。