時は大正7年。戦争の特需で財を成す人々がいる一方で、国家からの恩恵だけを頼りに暮らし、時代の波に乗り遅れた華族達の生活はいよいよ困窮し始めていた――
自分の誕生日を祝う夜会の最中だと言うのに、野宮百合子はひとり自室に籠もっていた。公家華族である野宮家の財政は困窮を極めているにも関わらず、状況に相応しくない豪華な宴になっていたからだ。父・野宮康之の真意を測りかねる百合子。だが、幼なじみの尾崎秀雄から、その夜会の狙いを聞いて合点がいく。それは百合子の結婚相手を決め、彼女の幸せ…延いては家の将来を担保するためのものだったのだ。
戸惑いながらも、両親のためを思い夜会の会場に向かう百合子。だがその時、反政府の暴漢達が乱入し、夜会は阿鼻叫喚に包まれる。そして、警官隊の到着により事態が収拾した後、さらなる悲劇が野宮家を襲う。その騒動の中で、康之が何者かに殺害されてしまったのだ。あまりの出来事に怒りも悲しみも忘れて、呆然とたたずむ百合子。だが彼女は、ただ一つの事だけは理解していた。
これが、転落の始まりだと言うことを――